伝統を受け継ぐ、新しい食文化。 【京都の和菓子】都の四季の移ろいを、五感とココロで味わう京菓子。 FOOD 2022.09.20

千利休が“茶の湯”を大成させたのは安土桃山時代のこと。和菓子はその頃から、茶に欠かせないものとして発展してきた。とりわけ京都では行事や日々の暮らしに息づき、多くの人に愛されている。ここではそんな和菓子のルーツから、京都人のお墨付きの名品、枠にとらわれない創作菓子まで、歴史を継承しつつ、多様化した今の和菓子事情をお届けします。

Navigator/俵屋吉富「お茶の世界と共にある京菓子。 実はあくまで“脇役”なんです。」

はんなり美しい京菓子の世界ですが、幾分敷居の高さを感じてしまう人も少なくないはず。1755年創業の御菓子司〈俵屋吉富〉が運営する〈京菓子資料館〉の辻真奈美さんに、初心者でもわかりやすい、京菓子の歴史と、ちょっと意外なストーリーを伺った。

「京都には菓子屋、饅頭屋、餅屋で扱うものも含め、多種多様な和菓子がありますが、ここで紹介している上生菓子は、主にお抹茶と一緒にいただくもの。茶道と共に洗練され、元禄時代には、ほぼ今のような形で完成されていました。ただ、当時は砂糖が大変高価で、庶民が菓子を口にするのは非常に稀なことだったようです。また、茶道における菓子は、あくまでも〝脇役〞で、大切なのは、お軸やお花、お道具など、テーマや季節の室礼の中でいかにお茶をおいしくいただくか。菓子の形が具象的な表現を避けているのは、ほかとの調和です。菓子だけではなく、全体で一つの世界を作り上げるのです」
 

お茶こそ主役とは少々意外。また、この時代には既に菓子に銘が付いていた。「和歌や古典文学、年中行事から付けられています。意匠を考えた、職人やお茶席の亭主(主催者)が優雅な銘を付けます。ですから、招かれた客がその銘の由来や込められた思いを読み取れるかどうかで菓子の奥行きも変わってくるのです」つまり、教養が試される!?と思うといささか及び腰に…。

「もちろん亭主と客の思いが一致すれば喜びもひとしおですが、感じ方はいろいろで正解はありません。作り込みすぎず、考える余白を与えることこそが京菓子の世界観なので。しかし今は茶道をされる方も減り、菓子をいただく場がお茶室から自宅のリビングへと広がり、ハロウィンのカボチャや雪だるまなど、銘を聞かずとも何を表現しているかわかる上生菓子を作ることもあります」

そんなストレートな遊び心も素敵だが、やはり千年の都・京都、その背景に隠された物語が味に奥行きを与えてくれる。「例えば、9月の『着きせ綿わた』という菓子は、重ちょうよう陽の節句の前夜に菊の上に綿を被せ、夜露や香りをうつし、翌朝顔や体を拭うことで不老長寿を願った宮中の行事に由来しています。正月の『花びら餅』、夏な越ごしの祓はらえの『水無月』なども宮中由来です。また、ほぼ全ての菓子に共通するのは、季節の移ろいと共にあるということ。上記の菓子は、あえて季節に合わせて紹介していますが、本来は、着物の柄のように四季を先取りしてワクワク感を楽しむのが京菓子の醍醐味。例えば、寒さ極まる2月であっても、立春を過ぎれば一気に春を感じさせる菓子が店頭に並びますよ」
そこに込められた悠久の時の流れと季節のエッセンス。知れば、お腹だけでなく心もじんわり満たされる。

〈俵屋吉富 烏丸店〉
銘菓「雲龍」や季節の上生菓子をいただけるお呈茶席(700円~)、菓子作りの体験もできる。

京都府京都市上京区柳図子町331-2 
075-432-3101
9:00~17:00 無休
北隣に京菓子資料館を併設(水木休、10:00~17:00)。

(photo : Kaori Ouchi,illustration : Yui Watanabe (eidos) ,text : Yoko Saegusa)

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