看板オムライスが550円!その心とは? 【銀座】古き良き洋食店〈フランス料理 蜂の子〉の愛され続けるオムライス FOOD 2018.02.17

古き良き洋食店がひしめく銀座。そんな銀座に、看板メニューのオムライスが550円で食べられる老舗洋食店があります。破格で提供し続けるマダムの思いとは?人々に愛され続けるオムライスには、家族の深い絆がありました。

「家族の和」と共に引き継がれた昭和の味

創業約70年の〈フランス料理 蜂の子〉では、看板メニューのオムライスを550円の格安で出している。

香り立つソースと薄皮の卵。〈蜂の子〉と刻まれたプレートにぴったりと。オムライス550円。夜は税別。コースの最後にはミニサイズが登場。
香り立つソースと薄皮の卵。〈蜂の子〉と刻まれたプレートにぴったりと。オムライス550円。夜は税別。コースの最後にはミニサイズが登場。

香り立つソースと薄皮の卵。〈蜂の子〉と刻まれたプレートにぴったりと。オムライス550円。夜は税別。コースの最後にはミニサイズが登場。

「主人がみんなに食べてほしいと大切にしていたメニューだから。これだけはずっと値上げしないでいるの」と名物マダムの平澤智枝子さん。

〈蜂の子〉は昭和23年に開店。初代店主・平澤平一さんの親戚が〈蜂瀧〉という料亭を構えていたため、この名がつけられた。
「最初の店は銀座8丁目にあって、この写真は昭和24年ごろにお店の前で撮影したの。戦後の復興の中で、洋食の評判がまたたく間に広まって。映画スターや宝塚の方も来る人気の店でした」

店の従業員で働き者だった智枝子さんは、平一さんと結婚。
「見初められちゃったのよ(笑)。親に反対されたんだけど、千葉の実家まで平一さんが挨拶に来てくれて」

昭和24年ごろ。前列中央が初代店主の平澤平一さん。後列左端が結婚前の智枝子さん。ハイカラな制服を着られるのがうれしかった。
昭和24年ごろ。前列中央が初代店主の平澤平一さん。後列左端が結婚前の智枝子さん。ハイカラな制服を着られるのがうれしかった。

昭和24年ごろ。前列中央が初代店主の平澤平一さん。後列左端が結婚前の智枝子さん。ハイカラな制服を着られるのがうれしかった。

その後、店は築地に移転し〈フランス料理 蜂の子〉となる。メニューには、平一さんが考案した「白スパと肉ヤサイ」、食パンを器にしたグラタン「パンコキーユ」など、低価格で親しみやすい料理が並び、中でも人気を博したのが「オムライス」だった。

卵には牛乳とマヨネーズを少しだけ。
卵には牛乳とマヨネーズを少しだけ。

卵には牛乳とマヨネーズを少しだけ。

デミグラスソースの料理と併せて食べても重くならないように、チキンライスの中身は肉と玉ねぎのみ。シンプルで、飽きない味。
デミグラスソースの料理と併せて食べても重くならないように、チキンライスの中身は肉と玉ねぎのみ。シンプルで、飽きない味。

デミグラスソースの料理と併せて食べても重くならないように、チキンライスの中身は肉と玉ねぎのみ。シンプルで、飽きない味。

出前の注文も多く、学生を住み込みで雇ったこともあった。
「家を改造して、4、5人住めるようにして、まかないつきの無料で住まわせました。それなら、地方の親御さんも安心するでしょう?」
 
2人の子に恵まれ、店も家も順風満帆だったはずが、ある日、平一さんは帰らぬ人となる。
「突然倒れて、たった一晩で逝ってしまった。あまりの出来事に呆然としてしまって。近所の方と顔を合わすたびに話を聞いてもらい、涙を流す日が続きました。そうしたらある日、当時4歳だった下の子が『お母さん、お父さんのことを話すのはもうやめよう。フランスに行ったと思おう』と。そこで私は目が覚めたんです。この子の前では二度と泣かない!なんとしてもお店を守ってみせるって誓ったの」

それから智枝子さんは懸命に働いた。長男の新一さんは高校卒業後、チーフシェフのもとで共に働き、次男の利光さんは、赤坂のレストランで修業を積み、父のつけた店名の「フランス料理」を実現するため、フランスに渡って料理を学んだ。現在は兄弟シェフ2人で、本格フレンチと洋食を提供している。

ブロッコリーとズワイガニのサラダ仕立て1,000円。ミツカン酢やマヨネーズを使う、日本の洋食らしい洋食。
ブロッコリーとズワイガニのサラダ仕立て1,000円。ミツカン酢やマヨネーズを使う、日本の洋食らしい洋食。

ブロッコリーとズワイガニのサラダ仕立て1,000円。ミツカン酢やマヨネーズを使う、日本の洋食らしい洋食。

「本当は、料理人は4人くらい必要なんですよ。でも、家族だから2人とも文句を言わずによく働いてくれています。主人に似て、優しい子たち。私は幸せです」

損をして得をとれ、が店のモットーであり平一さんの心がけだった。オムライスの値段を550円に据え置いているのもこの理念から。
「最初は単品で頼んだお客さんも、気に入ったら必ずまた来て、別の料理も食べてくださる」

六十数年、接客をしてきた智枝子さんの実感である。現在も店に出て、こまやかな気配りを欠かさない。
「初めて来てくださった方には白スパの食べ方を教えてさしあげたり、常連さんにはほんの少しサービスをしたり。シェフには内緒でね(笑)。どんな人にも思いやり、ですよ」
「なにより和が大切」と智枝子さん。家族の和。働く仲間との和。かつて住み込みで働いていた学生たちとの交流は続いており、いまも時折、家族を連れて食べに来る。近年も大学生のアルバイトを代々雇っているが、卒業生に子どもが生まれると、幸福を祈り靴下を贈っているという。

店は5年前に大掛かりな建て替えをした。それでも、ランプシェードや柱など、生前、平一さんが愛したインテリアは大事に残している。
店は5年前に大掛かりな建て替えをした。それでも、ランプシェードや柱など、生前、平一さんが愛したインテリアは大事に残している。

店は5年前に大掛かりな建て替えをした。それでも、ランプシェードや柱など、生前、平一さんが愛したインテリアは大事に残している。
「主人は切子が大好きでね、2人で買い集めたグラスを飾っているの」

平一さんがデザインしたお店の看板の前で。左が平澤智枝子さん。右はシェフの平澤利光さん。「お店に出て働いているときのほうが元気なの」と笑う智枝子さん。
平一さんがデザインしたお店の看板の前で。左が平澤智枝子さん。右はシェフの平澤利光さん。「お店に出て働いているときのほうが元気なの」と笑う智枝子さん。

平一さんがデザインしたお店の看板の前で。左が平澤智枝子さん。右はシェフの平澤利光さん。「お店に出て働いているときのほうが元気なの」と笑う智枝子さん。

いまなお心は、愛する平一さんとともに……。最後に、再来年増税したらオムライスの値段をどうするのか尋ねてみると「私の目の黒いうちは、値上げしません!」ときっぱり、笑顔で答えてくれた。 

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(Hanako1142号掲載/photo : Akira Yamaguchi)

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