「料理を通して、その文化の『本質』を伝えたい。」 食生活を見直すきっかけに訪れたい。東京で出会った、「食」を発信するレストラン4軒 FOOD 2019.09.01

普段何気なく口にしている食を、今一度見直してみませんか?料理教室の開催や、食品ロスを減らす取り組みなど、食に対するそれぞれの熱い思いを発信するレストラン4軒をご紹介します。

1.〈BOLT au crieur de vin〉/神楽坂

神楽坂 BOLT au crieur de vin
神楽坂 BOLT au crieur de vin

〈マルディ・グラ〉出身で、ブルゴーニュやオーストラリアの星付きレストランで修業してきた仲田高広さんが目指すのは広義の「食育」。7月オープンのこのお店は一見、居酒屋のような店構えだが料理は本格的だ。

ほろほろと舌の上で崩れるラムシャンクブレゼ(2,800円)にはあえて日本酒、屋守を。
ほろほろと舌の上で崩れるラムシャンクブレゼ(2,800円)にはあえて日本酒、屋守を。
オーストリアの郷土料理をアレンジしたいくらのゲヴェルツマリネセルベルドカニュ吉田パン 1,800円。
オーストリアの郷土料理をアレンジしたいくらのゲヴェルツマリネセルベルドカニュ吉田パン 1,800円。

仔牛の腎臓、「ロニョン・ド・ヴォー」など見慣れぬ素材も多い。「フレンチになじみがない若い世代にももっと未知の食材を知ってほしい」と仲田さんは語る。締めはなんと「スープ・ド・ポワゾンカレー」!

神楽坂 BOLT au crieur de vin

くだけた雰囲気でも料理に集中できるよう、割りばしではなく重厚なカトラリーで出迎える。「布ナプキンを前にすると人はしゅっと背筋が伸びますから」と仲田さん。「ゆくゆくは子供や高齢者など様々な層に向けて料理教室を開きたい」と目を輝かす。「料理というのは命をいただく残虐な側面もある。それも含めて伝えたい」。フレンチの本質を体感し、新しい扉を開くカウンターだ。

(Hanako1148号掲載/photo : Mao Yamamoto text : Noriko Maniwa)

2.〈Indochinoise〉/岩本町

看板もなく住所も非公開。知る人ぞ知る店内の様子は図面に起こすとこんな感じ。扉を開けると目の前にキッチンカウンターがあり、園健さんとあずささんが調理しながらにこやかにお出迎え。
看板もなく住所も非公開。知る人ぞ知る店内の様子は図面に起こすとこんな感じ。扉を開けると目の前にキッチンカウンターがあり、園健さんとあずささんが調理しながらにこやかにお出迎え。

予約は1日1組のみ。ユニットを組む園健さんと田中あずささんは2、3カ月に1度はベトナム・カンボジア・ラオスの旧仏領インドシナ界隈へと旅立つため、毎日営業しているわけではない。けれどその旅の恩恵を受け、現地の食材や調味料を使い、アップデートされた「本質」を味わうことができる。現地ではそれぞれのテーマに合わせリサーチ。時には単身カヌーでしかたどり着けない奥地の村へ入り、語り継がれたレシピを得ることも。「古典的な料理は物流インフラから外れた、田舎の家庭料理に残されていることが多いですね」と健さん。

アンティークの棚には食器や鍋が所せましと並び、かの国に迷い込んだような錯覚に。
アンティークの棚には食器や鍋が所せましと並び、かの国に迷い込んだような錯覚に。

渡航のたびに鍋、包丁に至るまで、現地のものを運び、食器には仏領インドシナ時代のアンティークも。BGMには統治時代の歌謡曲が流れる。扉の内側はその世界観が再現された奇跡の空間なのだ。

大きなダイニングテーブルからはキッチン全体が見渡せる。
大きなダイニングテーブルからはキッチン全体が見渡せる。

幻の食卓では和やかな空気が流れる。健さんもあずささんも時にはグラスを傾けながら調理。次々と大皿が運ばれ、その料理が生まれた背景や旅の思いを聞きながら味わう。

岩本町 Indochinoise
料理はコースのみで1人8,000円~。食前酒を飲みながらゆるりと始まる。素焼き鮎の豚バラ肉ココナッツ煮込み添えがけ(写真上)やラオス発祥のラープから始まり、蟹のタマリンド炒め(写真下)やカンボジア式鶏煮込みなど大皿料理が次々と出される。
料理はコースのみで1人8,000円~。食前酒を飲みながらゆるりと始まる。素焼き鮎の豚バラ肉ココナッツ煮込み添えがけ(写真上)やラオス発祥のラープから始まり、蟹のタマリンド炒め(写真下)やカンボジア式鶏煮込みなど大皿料理が次々と出される。
長粒種のもち米を一口大にして手でつまみ、お料理と混ぜ「チャムチャム」しながらいただく。甘香草のローストかりん添え(写真)やラオスのたけのこスープも出て満腹に。デザートは桃のマリネ。
長粒種のもち米を一口大にして手でつまみ、お料理と混ぜ「チャムチャム」しながらいただく。甘香草のローストかりん添え(写真)やラオスのたけのこスープも出て満腹に。デザートは桃のマリネ。

キッチンとダイニングの垣根はなく、いつのまにかカウンターを囲み、レクチャーが始まることも。「ベトナムは料理の洗練を追求した歴史があり華やかさがあります。カンボジアやラオス料理は河や山の素材を生かす知恵がありますね」など三国を俯瞰した分析も楽しく、会話が広がる。フォトグラファーとしても活躍する健さんは語る。「表面的な華やかさではなく、料理を通して、その文化の『本質』を伝えたい。暗く厳しい時代も経てきた、そのネガティブな歴史や文化も含めて語り継いでいきたい。失われた文化ってロマンがあるじゃないですか」と話す。

(Hanako1146号掲載/photo : Norio Kidera text : Noriko Maniwa)

3.〈檸檬の実〉/千駄木

千駄木 檸檬の実

ややもすると通り過ぎてしまいそうな、下町の路地に溶け込む佇まい。だが、古い木造住宅を改装した食堂〈檸檬の実〉にたどり着いた人は皆、心もお腹も満たされてにこやかに家路に就く。そんな心地よい「気」が満ちる小さな店の中心は、カウンターに囲まれたL字型のキッチンだ。

千駄木 檸檬の実

明るい声の店主、イダマイコさんの聖域といえるこのキッチンから、毎日1種類の日替わり定食、焼きたてのシナモンロールやクッキー、ナッツやフルーツ入りのパンが次々と出てくる。

日替わり野菜料理は安納芋の茶巾しぼり、紫タマネギのバルサミコソテー、春キャベツとキャラウェーのマリネ。菜の花をのせたネギとタマネギ入りのつくね焼きと、白味噌風味のウドとレタスのサラダ。ハーブやスパイスを上手に使い季節感あふれる風味。
日替わり野菜料理は安納芋の茶巾しぼり、紫タマネギのバルサミコソテー、春キャベツとキャラウェーのマリネ。菜の花をのせたネギとタマネギ入りのつくね焼きと、白味噌風味のウドとレタスのサラダ。ハーブやスパイスを上手に使い季節感あふれる風味。

店内にメニューはないが、お喋りしながらも手を休めないイダさんが丁寧に説明してくれる。カウンター周りの季節の花々、本、スパイスを眺めれば、主人の人柄や料理の味まで伝わるような雰囲気は唯一無二。ひとりで切り盛りするから、お客ひとりひとりに温かな料理が作り出される。常連客の多さも納得の、また帰りたくなる場所だ。

千駄木 檸檬の実

(Hanako1156号掲載/photo : Ayumi Yamamoto text : Chiyo Sagae)

4.〈dたべる研究所〉/九品仏

ワークショップや料理教室も開催。
ワークショップや料理教室も開催。

〈D&DEPARTMENT〉が手掛けるカフェが一新。

九品仏 dたべる研究所

素材をいかした全国の郷土料理が並ぶビュッフェランチ平日2,000円、土日祝2,500円は、月毎のテーマ食材の多彩な魅力を体感できる。6月は「味噌」で7月は「寿司」を予定。

九品仏 dたべる研究所

木から落ちた実を使う「晩柑ジュレ(ヨーグルトムース)」350円(各税込)などで食品ロスを減らす取り組みも。

〈dたべる研究所(ディたべるケンキュウジョ)〉
■東京都世田谷区奥沢8-3-2
■03-5752-0120 九品仏
■11:30~15:00、15:30~19:00(フード18:00LO、ドリンク18:30LO)水休
■36席/分煙

(Hanako1173号掲載/edit:Kahoko Nishimura)

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