小谷実由の『趣味がなかなか見つからなくて。』/砥石を使って包丁を研ごう。
2019.07.21

一生モノの趣味を見つけよう! 小谷実由の『趣味がなかなか見つからなくて。』/砥石を使って包丁を研ごう。

ファッションモデルから執筆活動まで、分野を超えて軽やかに行き来する小谷実由さん。意外にも、趣味らしい趣味がないのだとか。夢中になれる、一生モノの趣味と出会うべくしてはじまったこちらの連載。3回目は総合刃物メーカー〈貝印〉の包丁マイスターを先生に、砥石を使っての包丁研ぎを体験しました。

小谷実由 / ファッションモデル

「モデル。1991年、東京生まれ。愛称”おみゆ”でおなじみ。喫茶店巡りはライフワーク。」

小谷実由
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Step.1 包丁のいろはを学ぼう。

ひとくちに包丁と言っても、和包丁と洋包丁、鋼製とステンレス製など種類はさまざま。総合刃物メーカー〈貝印〉で「包丁研ぎ講習会」の講師を務める林泰彦さんを先生に、まずは包丁の基礎知識を教わりました。

小谷「わー、これ全部〈貝印〉さんから出ている包丁ですか?」

「まだまだ、ほんの一部ですよ。包丁の種類は大きく分けて「洋包丁」と「和包丁」の2種類に分けられます。両刃の洋包丁は比較的多用途に使えるのが特徴で、片刃の和包丁はそれぞれに目的がはっきりしているのが特徴です」

小谷「ちょうど私、包丁を揃えたいなと思っていたところなのですが、オススメがあったら教えて欲しいです」

「ご自宅用でしたら、マルチに使える洋包丁がいいでしょう。中でもこの「三徳包丁」は使いやすいですよ」

小谷「三徳包丁!すごい名前ですね」

「「三徳」とは肉と魚、野菜を指す言葉です。まさに、多目的包丁という意味ですね。ただし凍ってるものや骨などの硬いものは切らないでくださいね。あとは「ペティナイフ」も使いやすい。まな板を使わずに食材を鍋の上に落としていきたいという方やチョット使いをしたい方にオススメです。三徳包丁とペティナイフを組み合わせれば、調理の幅はうんと広がると思いますよ」

「次は素材についてですが、包丁の刃はほとんどは「ステンレス」でその他に「鋼(はがね)」が一般的です。今日、小谷さんがご自宅からお持ちいただいた包丁は、ステンレス製のものでしたね」

小谷「はい。ちなみに鋼とステンレスで素材の優越はあるのでしょうか?」

「よく「鋼はいいけど、ステンレスはだめだ」と言う方がおられるのですが、そんな事はありません。鋼よりも性能の高いステンレスはたくさんあります」

小谷「そうなのですね。「ステンレスはだめだ!」って私の祖父もよく言っていました」

「きっとステンレスが普及し始めた当時は、素材のクオリティが高くなかったのでしょう。あとステンレス製の包丁は100円ショップにもありますから、価格相応の比較ができていなかったというのも考えられますね。ご自宅で使っていただくものでしたら、ステンレス製の包丁から選んでいただいて、まず不自由はありません。手入れが簡単ですし、きちんとつくられている商品は性能も申し分ありませんから」

「さまざまな会場で講座なんかをしていると、冗談か本気か「研がなくていい包丁ってありませんか?」っていう質問をいただくことがありまして。小谷さんはどう思われますか?」

小谷「まあ、本音ではありますよね。ひょっとして、そんな便利な包丁があるのですか?」

「残念ながら今現在、砥がなくていい包丁というものは存在しません。すべての刃物は使えば使うほど、切れ味が落ちます。ただ、刃持ちがいい包丁はありますね」

小谷「包丁の刃持ちの良さは、何によって差がつくのでしょうか?」

「刃物には三大要素というものがあり、素材と焼入れ、研ぎの3つが包丁の良し悪しを左右すると言われています。したがって、この3つが揃っている包丁は、刃先が硬くて丈夫な包丁ということになります」

小谷「きっと値段もそこで差がついてくる訳ですね。包丁の素材や焼入れは、見ただけで違いが分かるものなのでしょうか?」

「いえ、これらは見た目だけではほとんど判別ができません。ただし、砥ぎ慣れてくると分かるようになります。素材の硬さだとか粘り、焼入れの具合なんかが、感じ取れるようになるのですね。この後、実際に包丁を研いでいただくのですが、今日自宅からお持ちいただいた包丁の造りもぜひ一緒に確認していきましょう」

Step.2 砥石で包丁を研いでみよう。

いよいよ本題の「研ぎ」体験へ。カンナで木材を削るようにガシガシとした力が必要なイメージの包丁砥ぎですが、実際は果たして?

「包丁全体を包み込むように持ち、軸から遠いところを指2本で抑えるのが、ブレにくい持ち方です。包丁を握っている手の人差し指を「峰」と呼ばれる包丁の背の部分に、親指を「アゴ」と呼ばれる柄側の刃先の近いところに置いてください。反対側の手は指二本ぐらいを刃先近くに軽く添えてください。男性に多いのが、がっちりと押さえて、力任せに研ごうとされるパターンなのですが、これだと包丁がブレてしまって、刃先が鋭くなりません」

小谷「私もてっきり、包丁は力を込めて砥ぐものだと思っていました」

「硬い包丁を削る訳ですから、ガシガシといきたい気持ちは分かるのですが。砥ぎにおいては力を入れるより、正確に動かすことの方が重要です。砥石に対する刃の角度をブレさせない。これは包丁を砥ぐ上で最も重要なポイントとなりますね」

「両刃のものは片面ずつ順に仕上げていきます。両刃の刃先は一般的に30°くらいですので、片面の刃先をそれぞれ15°ずつに研いでいくイメージです」

小谷「15°ですか!何か測り方はあるのでしょうか?」

「10円玉を2枚挟むだとか、割り箸を差すだとか測り方は色々あるのですが、私はご自身の指を使って覚えてしまうのをオススメしています。私の場合だと砥石と包丁の背側の隙間に小指の爪が挟まるくらい、これで大体15°です。小谷さんの場合は指が細いので、第一関節くらいまででしょうか。この入れた深さを覚えておきます」

小谷「角度を一定にしたまま砥ぎ続けるのって難しそうですね」

「必ずすぐに分からなくなると思います(笑)ですので分からなくなるたびに、指を入れて調整する。これが重要です。研ぎ始めから研ぎ終わりまで、同じ角度で動かすことを意識してください」

小谷「押すときと引くときは、どちらに力を入れるのがいいのでしょうか?」

「すごく鋭い質問なのですが、押すときも引くときも力を入れないというのが正解ですね。砥石の粒子は包丁よりも硬くつくられていて、必ず砥げるようにできています。必要以上の力は加えず、腕の重さが乗るくらいの圧力で撫でるように動かしてあげれば、充分に砥ぐことはできるはずです」

小谷「余計なことは考えないで、ただ真っすぐに押して引いてを繰り返す訳ですね」

「感覚的には、左手を砥石の端から真ん中までを往復するように動かして、そこに包丁が挟まっている、そんなイメージでしょうか。あとは、砥石の縦幅をいっぱいに使うと効率が良くなります」

Step.3 "まくれ"を取って、刃先を仕上げよう。

小谷「いま砥いでいる部分がちゃんと砥げているかは、どのように見極めるのでしょうか?」

「刃の先端までを削りきると、そこにあった金属が刃の反対側にまくれ上がる現象が起こるのですね。この"まくれ"をチェックします。背中から刃先に向けて指で触って、髪の毛1本分程度の引っかかりを感じる"まくれ"を確認できたら、刃がついた目印となります」

小谷「あ、既に"まくれ"が触って分かるくらいにまで出てました!」

「それを刃の端から端まで進めていって、ようやく片側に刃がついたということになります。少し研いでは刃先を確認。また少し研いでは刃先を確認。この手順ですね」

小谷「刃の端から端まで研げたようです。いかかでしょうか?」

「うん、いい感じですね。同じ手順で刃の裏側も仕上げていきます。中には、包丁の片面だけを砥いでおしまいって方がおられるのですが、それでは、せっかくの両刃がどんどんと片刃のようになっていってしまいます。必ず刃の両側ともを研ぐようにしてください」

小谷「両刃が片刃のように、ですか?」

「包丁って刃の真ん中の部分に硬くていい素材を挟んで使われているものがあるのですが、片面ばかりを砥いでいると、先端にこの素材が出なくなってしまう訳ですね。ですので、刃の表面と裏面は、できるだけ同じ程度に砥がなくてはなりません」

「刃先の"まくれ"は、このように新聞紙を使って取っていきます。砥石にあてた角度と同じくらいの傾斜でこすって、出過ぎたまくれを反対側に折り返していくイメージですね。それを両面行い、数回ずつやったら刃先を確認し、"まくれ"が取れているかを確かめます。"まくれ"が取り切れていないと切れあじは上がりませんし、このままの状態で食材を切ってしまうと、食材に金属が紛れ込んでしまうこともありますから」

小谷「"まくれ"って、そんな繊細なものなのですね」

「そうなのです。あとは、一気に取ろうと強くこすってしまうと、せっかく砥いだ刃先が潰れてしまうこともあるので、少しずつ丁寧に進めていくのがポイントです」

Step.4 砥石のメンテナンスを教わろう。

これまで包丁の切れ味を保つための「砥石」の使い方を教わってきた小谷さん。ここに来て、砥石の砥ぎ味を保つための「面直し用砥石」の存在を知ることに。

「今までは、包丁を砥ぐための「砥石」の使い方をご紹介してきましたが、次は砥石を研ぐための砥石「面直し用砥石」の使い方をお伝えしようと思います」

小谷「砥石を研ぐための砥石ですか!砥石も何かしらメンテナンスが必要なのかなって思っていました」

「砥ぐのが上手になったとしても、砥石自体が歪んだ状態で研いでしまっていたら、どうなると思いますか?」

小谷「砥いでも砥いでも、刃先が鋭くならないですね」

「その通りです。先端が丸くなって、さらに切れない包丁へとなってしまう可能性が高い訳ですね。つまり今日お伝えした内容は、砥石の表面が平らであることが大前提となります」

「砥石って減るものですので、先ほど少し包丁を研いだだけでもおそらく歪みが出ています。試しに、砥石の表面に鉛筆で目印をつけて数回こすってみますね」

小谷「わー、真ん中が残ってしまいますね」

「砥石の中央部分がすり減った状態だったということです。この10秒程度の作業が、どれだけこれが大事なことかお分かりいただけましたでしょうか」

「面直し用砥石って3,000円程度のものなのですが、実は購入するべきか迷われる方が多いようでして。中には道路のアスファルトを使って削るといった方もおられるようです」

小谷「え、もっとガビガビになってしまう」

「実は私も、実際に試してみたのですが、砥石の周りがボロボロに砕けてしまうのと、砥石の表面も荒れてしまいダメでした。この方法は辞めた方がいいです」

小谷「ちゃんと面直し用砥石を用意して、定期的にメンテナンスするのが一番ですね」

「おっしゃる通りです。面直し用砥石はこれひとつで非常に多くの回数の砥石を修正する能力がありますし、何より砥石のメンテナンスを怠ると、せっかくの砥ぎが無駄になってしまいます。ぜひご家庭にひとつ、お持ちいただくことをオススメしています」

小谷「私、新しい包丁が欲しいなと思っていたのですが、まずは砥石と面直し用砥石を揃える方が先かもしれませんね」

包丁研ぎ体験を終えて。

昔から祖父が台所で包丁を研ぐ姿を見てきたという小谷さん。自然と、包丁砥ぎは男の人にしかできないくらい、力が必要な作業だと思い込んできたそう。一方で、砥ぎのセンスは上々で、その腕前は林先生から太鼓判を押されるほど。彼女は今回の砥ぎ体験から何を感じたのでしょうか。

小谷「いざ自分の手でやってみると、砥ぎの動作はシンプルで力も必要ありませんでした。「だし引き」や「餡づくり」の時のように、包丁を研いでいる間、無心で自分と向き合っているかのような感覚があったのが印象的でした。「真っすぐ」って普段あまり意識することないじゃないですか。曲がったことが嫌いだっていう自身の性格が反映されたのかもしれませんね」

小谷「最後に自分で研いだ包丁でトマトを切らせていただいたのですが、切れ味が今まで体験したことがないくらいスムーズでした!力を入れずにすっと滑らせるだけで、透けて先が見えるくらい薄いスライスができたのです。切れ味が良い包丁でする料理って、きっと気持ちいいものなんだろうなぁって思いました。包丁は道具だから、使いたい用途に合ったものを選ぶことや、カスタマイズをしていったほうがいい。あとはちゃんとメンテナンスをすることで発揮される性能もある。道具を育てることでさらに広がる世界があるんだなぁと感じました」

今回、教えてくれたのは?

今回、先生として包丁の砥ぎ方を教えてくれたのは、〈貝印〉包丁マイスターの林泰彦さん。〈貝印〉では、定期的に一般の方向けの包丁研ぎ講座を開催しています。詳しくは下記WEBサイトをご覧ください。

〈貝印〉
■東京都千代田区岩本町3-9-5
■0120-016-410
https://www.kai-group.com/

(photo : Natsumi Kakuto , listener : Yuya Uemura)

☆前回の「小豆を煮て餡をつくろう。」はこちらから
☆「小谷実由の『趣味がなかなか見つからなくて』」の連載ページはこちらから

小谷実由

次回は「ルーシーダットン」を体験予定です。お楽しみに!

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