「鎌倉は文士の町」書評家・ライターが語る!鎌倉にまつわる小説3冊
2019.06.07

梅雨の季節は読書を満喫。 「鎌倉は文士の町」書評家・ライターが語る!鎌倉にまつわる小説3冊

室内で過ごすことの多くなる梅雨の季節は、読書を満喫してみては?今回は、書評家・ライターの瀧井朝世さんに、学生時代、友人と訪れた長谷での思い出と深く結びついた、鎌倉にまつわる小説を語っていただきました。

編集部 / Hanako編集部

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瀧井朝世さん「やっぱり鎌倉は文士の町だと思う」

鎌倉駅から江ノ電で三つ目にある長谷駅。大学生の頃、よくそこを訪れた。というのも、その頃親しかった女友達のお祖母さんの家があったからだ。駅を出て海とは反対側へ進み、坂を少し上ったところにある古く広い邸宅だった。孫娘の仲間たちはみな、自分も孫になった気分でしょっちゅう遊びに行っていた。春には親戚やら親の友達まで集まって花見で大宴会、夏には数人で泊まって海で遊び、大混雑の鎌倉の花火大会も経験した。お祖母ちゃんを囲んで麻雀をしたこともあった。魚屋で白子を大量に買って豪快に食べたこと、庭に出て空高く旋回するとんびをぼーっと眺めたこと、二階の部屋で寝ながらリスが屋根裏を駆ける音を聞いたこと、なぜか友達の両親と私とで銭洗弁天で硬貨を洗ったこと……断片的な場面の数々が脈絡もなく浮かんでくる。それだけ多くの時をあの場所で過ごしたということだ。

もちろん、その家で読書して過ごすこともあった。友人とも本の話に花を咲かせたが、彼女はフランスからの帰国子女で、もっぱらボリス・ヴィアンなどの仏小説の話題が多かった。それでも、あれは何がきっかけだったのか、二人で散歩がてら鎌倉文学館に行ったことがあった。長谷の丘の上にある旧侯爵家の建物の内外をうっとり眺め、庭園を歩き湘南の海を見下ろし、やっぱり鎌倉は文士の町だねと話したように思う。

1.川端康成『山の音』

それで手にとったのか、川端康成の『山の音』は知っている長谷の風景をありありと目に浮かべながら読んだ記憶がある。

川端康成『山の音』(新潮文庫/590円)鎌倉の長谷に暮らす尾形信吾は62歳。妻と息子夫婦の4人家族だが、息子はよそに女を作って帰ってこない。さらに嫁いだ長女が子どもを連れて戻ってくるのだった。

今思えば、海辺の町なのに家の裏に小山がある設定に違和感がなかったのも、鎌倉の起伏に富んだ地形を実感を持って知っていたからだろう。主人公は長谷から東京に通勤しており、東京から長谷に遊びに行く自分としては、電車移動の細かな記述も身近に感じられたのだった。

2.藤谷 治『世界でいちばん美しい』

大学を卒業し、鎌倉から遠くなり、ライターとして著者インタビューを多く請け負うようになった頃、作家の藤谷治さんにインタビューした。彼も少年時代に鎌倉周辺で過ごした時期があり、聞けば川端が死んだ日を憶えているという。小学生の頃、数人で遊んでいたら友達が来て、「川端が自殺したんだよ!」というので、連れ立って小坪トンネルを抜けて逗子マリーナまで見に行ったが、警察やマスコミがたくさんいて怖くなり、帰ったのだそうだ。その話を聞いた時、私の知っている鎌倉と藤谷さんがいた頃の鎌倉が繋がった。彼の作品には鎌倉周辺が多く登場するが、私はいつも何か懐かしい気持ちでそれを読む。

藤谷 治『世界でいちばん美しい』(小学館文庫/750円)鎌倉育ちの島崎哲の親友だったのは、雪踏文彦、通称せったくん。勉強ができずに周囲から馬鹿にされる少年だが、実は驚異的な音楽の才能の持ち主。彼が辿る人生とは。

大好きな『世界でいちばん美しい』には、若宮大路にあるレストランが出てくる。本当に鎌倉にこんな店があったら、そこでこの作品に登場する、天才的な音楽の才能を持つせったくんが演奏していてくれたら、と思わずにいられない。

3.三上 延『ビブリア古書堂の事件手帖』

三上延さんの『ビブリア古書堂の事件手帖』に出てくるような古書店が、本当に北鎌倉にあってくれたら、とも思う。

三上 延『ビブリア古書堂の事件手帖』(メディアワークス文庫/590円)北鎌倉にある木造家屋の古書店、ビブリア古書堂。店主の栞子は極度の人見知りだが、本の知識と推理力は人一倍。店のアルバイト・大輔とのコンビが、古本をめぐるさまざまな謎を解決。

若くて少し青臭さのある主人公たちが古書をめぐる謎に直面し解決していくなかで実在の古典的名作が多数登場するこのシリーズは、私の中の鎌倉のイメージに直結している。

今思えば眩しいような休日をたくさん与えてくれた、海と山と寺の町、そして本が似合う読書の町というのが、私の中の変わらない鎌倉のイメージだ。

瀧井朝世さん

ライター。作家インタビューや書評、作家の対談などの企画を多く手掛けている。TBS系『王様のブランチ』ブックコーナーのブレーン。

(Hanako1135号掲載/photo : Kayoko Aoki)

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