戦時下で灯り続ける、人間の使命感と葛藤。/第11回 ヒコロヒーのナイトキャップエンタメ CULTURE 2023.03.29

疲れた心と体に染み込む、ナイトキャップ(寝酒)代わりのエンタメをヒコロヒーが紹介。第11回は、昨年NHKスペシャルで放送された『戦火の放送局〜ウクライナ記者たちの闘い〜』(HP)。

『戦火の放送局〜ウクライナ記者たちの闘い〜』

第11回

ウクライナに関するドキュメンタリーがたくさん放送されているなかで、今回は現地の放送局に密着した作品を紹介したい。私が特に気になったのは、あるシングルマザー記者の変化だ。最初は使命感で率先して取材に出向いていた彼女。しかし、たくさんの子どもが犠牲になる現場を目の当たりにすることで、以降、取材ができなくなっていく。母親という立場を思うとそれも当然。他国の悲惨な現場には何度も行ったらしいが、自国民の悲劇を取材するつらさはその比ではないという。私は今までニュース映像をただの「情報」としてしか受け取れていなかったことを反省した。その報道の裏には、感情を押し殺しながら働いている「人間」がいるのだった。
当然、ジャーナリズムを貫く上での葛藤もある。国営から公共放送となり、市民のために独立性のある番組づくりをしてきた記者たち。政府とは一定の距離を保っていたが、戦時下では情報規制などの圧力をかけられている事実も浮き彫りになった。もちろんロシアの攻撃による放送妨害も続いている。それでもなお、公平公正な番組を届けようと必死に働く姿には思わずぐっときてしまった。
本作は戦争のドキュメンタリーだが、仕事に対する矜恃と真摯さの物語でもあったと思う。きっと記者だけでなく、どんな職業にも使命感や葛藤は存在するはず。そのことも忘れたらいかんのやろな。

text:Daisuke Watanuki

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