〈河野酢味噌製造工場〉の発酵食品。県内の高校生と共に商品開発した「焼肉の糀たれ」も密かな人気商品。
〈河野酢味噌製造工場〉の発酵食品。県内の高校生と共に商品開発した「焼肉の糀たれ」も密かな人気商品。

日本の文化や自然を継ぐために! 土地に根付いた発酵文化。
真庭市[岡山県]/旅こそ、SDGs。#3 Learn 2023.03.16

酪農が盛んな蒜山(ひるぜん)高原で知られる岡山県真庭市。豊かな水源に恵まれ、寒暖差のあるこの地域では古くから発酵の文化が根付いている。味噌、日本酒、ワインにチーズ……。地元の発酵の魅力を発信すべく立ち上がった「まにわ発酵’s」と共に巡る、岡山発酵の旅へ。

味噌や酒など、醸造業にはおいしい水が欠かせません。この辺りは一級河川・旭川の豊かで良質な水に恵まれています。しかも同じ水系でありながら、軟水と硬水の両方がある、とても不思議な土地。ちなみにうちは軟水系です」と、1888年から続く老舗〈河野酢味噌製造工場〉の5代目・河野尚基さんは言う。蔵には創業当時から使い続けられている杉桶が神々しく立ち並び、豊富な地下水を大切に使いながら、じっくりと時間をかける天然醸造を行っている。
「私たちの仕込む天然醸造の味噌は『寒仕込みの土用越し』といわれるように、寒い冬に仕込み、暑い夏を越させておよそ1年間自然の力で発酵・熟成を行います。お酢も、創業時から培っている酢酸菌を使い自然の力で発酵・熟成させるので、やはり6カ月以上はかかりますね」

じっくり造るから香り高くコクが深い。かけた時間は味わいの深さに如実に表れるのだ。「発酵をやっている人たちは大抵オタクなんです(笑)」と、河野さんは続ける。
「『良い酢造りは酒造りから』といわれるように、お酒を仕込んでからお酢造りがはじまるのですが、おいしく飲むためと、酢酸発酵をおこすためでは、同じ酒造りでも造り方がまるで違うんです。味噌や酒の素になる麹ひとつとっても然り。同じ発酵でも性質や考え方がまったく違うので面白いですよ」

真庭市は水が良く、蒜山高原の寒冷な気候も良い。蒜山一帯の土地は「黒ボク」と呼ばれる火山灰を多く含む黒い土壌で、有機物の含有量が多く、野菜や米がよく育つ。すなわち良い原料が穫れる。この地域には、発酵に適した条件が揃っていたのだ。
「かつては酒を筆頭に、醤油や味噌も多く造られていたと聞いていますが、現在その数は激減しています。同じ醸造業を営む同世代の仲間たちと将来について話しているときに、我々の共通点が発酵であることに気づいたんです。日本酒、ワイン、チーズ、パン……。一見、無関係の異業種ですが、クオリティの高い発酵の担い手が集まっているんですよ」

発酵という究極のテロワールに着目した河野さんが発起人となり、「まにわ発酵’s」が結成されたのは2012年のことだ。

真庭の風土が宿る、発酵は究極のテロワール。

「まにわ発酵’s」ではクロスオーバーによる共同醸造プロジェクトを行っている。たとえば「赤酢」は、岡山県産米で造った酒粕を譲り受けて天然醸造で仕上げたお酢。また2022年にリリースされた日本酒「HACCOS(ハッコウズ)」は、軟水エリアの〈御前酒蔵元辻本店〉と、硬水エリアの〈落酒造場(おちしゅぞうじょう)〉が互いの仕込み水を交換し、それぞれの蔵で日本酒を仕込むという画期的な試み。「途中で後悔するくらい大変な作業でしたが、水が変わるだけでこんなにも味わいが違うのかと新鮮な驚きがありました」と〈辻本店〉7代目蔵元の辻総一郎さん。

蒜山高原まで足を延ばせば、コクのあるジャージー乳を使ったチーズがあり、日本の固有種である山葡萄で造ったワインを堪能できる〈ひるぜんワイナリー〉もある。このワイナリーでは、蒜山高原に自生していた野生の木から、糖度が高く酸味が少ない木を10年かけて選抜し、栽培してきた。いまではワインのほかに100%ジュースやコンフィチュールなどのさまざまな山葡萄製品が楽しめ、ここにも真庭のテロワールが息づいている。

美容や健康の観点からも注目を集めている日本の発酵食文化は、飲んでも食べてもおいしい。発酵をキーワードに真庭市を巡れば、お腹も心も大満足だ。

「まにわ発酵’s」による共同醸造プロジェクトのアイテム。

日本酒「HACCOS」。
日本酒「HACCOS」。
岡山県産米の酒粕で造った「赤酢」。
岡山県産米の酒粕で造った「赤酢」。
蒜山高原にある人気のチーズ工房〈イルリコッターロ〉も「発酵’s」の一員。
蒜山高原にある人気のチーズ工房〈イルリコッターロ〉も「発酵’s」の一員。

【買う】河野酢味噌製造工場(こうのすみそせいぞうこうじょう)

〈河野酢味噌製造工場〉の発酵食品。県内の高校生と共に商品開発した「焼肉の糀たれ」も密かな人気商品。
〈河野酢味噌製造工場〉の発酵食品。県内の高校生と共に商品開発した「焼肉の糀たれ」も密かな人気商品。
自慢の麹。食べると栗のような甘みの「栗香」がある。
自慢の麹。食べると栗のような甘みの「栗香」がある。
〈河野酢味噌製造工場〉の5代目・河野尚基さん。
〈河野酢味噌製造工場〉の5代目・河野尚基さん。
酒蔵から譲り受けた、創業前からあるという杉桶は150年超えの現役選手。
酒蔵から譲り受けた、創業前からあるという杉桶は150年超えの現役選手。

初代清治郎が建てた清治郎蔵と杉桶による天然醸造を貫く。

住所:岡山県真庭市久世267
TEL:0867-42-0102 
営業時間:8:00〜17:00
定休日:日休

【買う】御前酒蔵元辻本店(ごぜんしゅくらもとつじほんてん)

〈御前酒蔵元辻本店〉の仕込み風景。岡山が誇る酒米、雄町が蒸し上がったところ。
〈御前酒蔵元辻本店〉の仕込み風景。岡山が誇る酒米、雄町が蒸し上がったところ。
最古の製造方法「菩提もと」造りによる酒は独特の酸味が特徴。
最古の製造方法「菩提もと」造りによる酒は独特の酸味が特徴。
勝山町並み保存地区のシンボルともいえる草木染めののれんが風情を醸し出している。
勝山町並み保存地区のシンボルともいえる草木染めののれんが風情を醸し出している。

蔵の前には蔵元直営ショップ〈SUMIYA〉もあり、お土産などを購入できる。

住所:岡山県真庭市勝山116
TEL:0867-44-3155
営業時間:8:00〜17:00

【買う】ひるぜんワイナリー

〈ひるぜんワイナリー〉では、ドイツ製の蒸留機によるグラッパの製造にも力を入れている。
〈ひるぜんワイナリー〉では、ドイツ製の蒸留機によるグラッパの製造にも力を入れている。
山葡萄赤ワインのヴィナッチャ(搾りかす)を蒸留した香り高いグラッパ。
山葡萄赤ワインのヴィナッチャ(搾りかす)を蒸留した香り高いグラッパ。
代表取締役で農学博士の植木啓司さん。
代表取締役で農学博士の植木啓司さん。

住所:岡山県真庭市蒜山上福田1205-32
TEL:0867-66-4424
営業時間:10:00〜16:00(4月〜11月は〜17:00)
定休日:無休(冬季火休) 
https://hiruzenwine.com/

【食べる】ひるぜんジャージーランド

〈ひるぜんジャージーランド〉の育成牧場ではジャージー牛がのびのびと育っている。
〈ひるぜんジャージーランド〉の育成牧場ではジャージー牛がのびのびと育っている。
濃厚なジャージーミルクのソフトクリーム。
濃厚なジャージーミルクのソフトクリーム。

住所:岡山県真庭市蒜山中福田956-222
TEL:0867-66-7011
営業時間:10:00〜16:00(〜3月中旬)、9:30〜16:30(3月下旬〜11月)
定休日:火水休

【参る】久世神社(くせじんじゃ)

〈河野酢味噌製造工場〉の近くにある久世神社。御祭神は酒造りの神様でもある木花開耶姫(このはなさくやひめ)。
〈河野酢味噌製造工場〉の近くにある久世神社。御祭神は酒造りの神様でもある木花開耶姫(このはなさくやひめ)。

なだらかな階段の上に、ひっそりと、けれど神々しく佇む社殿が目を引く。現在の本殿は明治36年に建立されたもの。

住所:岡山県真庭市久世1433

【訪れる】満奇洞(まきどう)

多彩なライティングで観光スポットとして人気の鍾乳洞、満奇洞。
多彩なライティングで観光スポットとして人気の鍾乳洞、満奇洞。

歌人・与謝野晶子が「奇に満ちた洞」と絶賛し、この名で呼ばれる。

住所:岡山県新見市豊永赤馬2276-2 
TEL:0867-74-3100 
営業時間:8:30〜17:00 
定休日:無休

旅こそ、SDGs。

“旅をする”とは即ち、その土地を訪れ、実際に見て、触れて、食べて、人と出会って話を聞いて、その思い出を持ち帰ること。日本各地の豊かな文化や貴重な自然を次の世代に残していくために、できる行動は何だろうと考えたとき、“旅をする”ことだと気がつきました。自分を豊かにしてくれる旅が、地域の継承にもつながっていく…。そんなSDGsな旅、西日本の4つの地域からお届けします。

関連記事はこちらから↓

photo : Kiichi Fukuda text & edit : Chisa Nishinoiri

Videos

Pick Up

SPpeachPeachで行く、奄美大島 (直行便!) の旅。2021年に世界自然遺産に登録された鹿児島県の奄美大島。一年を通して比較的温暖で豊かな森も美しい海も楽しめ、旅先に選ぶ人が増えています。 簡単におさらいしておくと、奄美大島は鹿児島本土と沖縄の間の洋上に浮かぶ離島。加計呂麻島や徳之島、沖永良部島など周辺の島々を合わせて奄美群島と呼び、フェリーや飛行機を使って群島ホッピングも可能です。 そんな奄美大島、いざ行くとなると「アクセスが良くなさそう」「航空券も高くなるのでは」と心配の声が聞こえてきますが…。大丈夫です! 日本のLCCを代表するPeachなら、奄美への直行便があるのです。成田空港から約3時間、関西空港から約2時間、そして(時期にもよりますが)片道4990円からとリーズナブル。これは、躊躇していたら損!Travel 2023.02.28 PR
サントリーvol3SP文筆家・塩谷舞による「今日、サントリーホールで。」Vol.3「何か豊かなものに触れて気持ちを切り替えたい。美術館で何かいい展示してないかな、映画館は……」。そんな日常の選択肢に加えて欲しいのが「コンサートホール」。クラシックといって構える必要はありません。純粋に音を楽しむのはもちろん、目を閉じてゆっくりと息を吸いながら、最近の自分のことを振り返ったり、あるいは遠くの場所や知人のことを思い出したり。ホールを出るころには心と体がふわっと軽くなる。文筆家・塩谷舞がサントリーホールで体験して綴る、「コンサートホールのある日常」。Learn 2023.02.28 PR
サントリーホールのオルガンは、オーストリアのリーガー社謹製。職人たちが1年がかりで手作業で作ったパイプをはるばる船で運び、半年かけて設置したのだとか。文筆家・塩谷舞による「今日、サントリーホールで。」Vol.2「何か豊かなものに触れて気持ちを切り替えたい。美術館で何かいい展示してないかな、映画館は……」。そんな日常の選択肢に加えて欲しいのが「コンサートホール」。クラシックといって構える必要はありません。純粋に音を楽しむのはもちろん、目を閉じてゆっくりと息を吸いながら、最近の自分のことを振り返ったり、あるいは遠くの場所や知人のことを思い出したり。ホールを出るころには心と体がふわっと軽くなる。文筆家・塩谷舞がサントリーホールで体験して綴る、「コンサートホールのある日常」。Learn 2023.01.27 PR
記事3_top_1Peachで行く、奄美大島 (直行便!) の旅③ | 絶景サンセットから、夜の森でアマミノクロウサギに遭遇!絶滅危惧種を含むユニークな動植物が数多く生息する鹿児島県の奄美大島。奄美群島のひとつである徳之島、沖縄島北部、西表島とともに2021年に世界自然遺産に登録され、海外からも熱い視線が集まっています。 サンゴを育む奄美ブルーの海と白砂がまぶしいビーチ、アマミノクロウサギをはじめとする天然記念物も暮らす亜熱帯の森やマングローブの原生林。地球の宝ともいえる、奄美ならではの美しい自然を味わってみませんか? 奄美大島は「アクセスが良くない」というイメージもありますが、LCCのPeachが運航する直行便なら、成田空港から約3時間、関西空港から約2時間。そして時期によっては片道4,990円からとリーズナブル! “遠い楽園”が身近になるPeachの直行便で奄美大島2泊3日の旅に出たのは、ハナコラボパートナーであるフォトグラファーのもろんのんさん。今回はサンセットの名所と森のナイトツアーを体験した絶景&アクティビティ編をお届けします。 公式サイトはこちらTravel 2023.03.14 PR
記事2_top_1Peachで行く、奄美大島 (直行便!) の旅② | とれたての海鮮丼から、島唄居酒屋で歌って踊って!?2021年に世界自然遺産に登録された鹿児島県の奄美大島。一年を通して比較的温暖で、豊かな森も美しい海も楽しめ、「沖縄より混雑していない」ことでも注目されて、旅先に選ぶ人が増えています。 簡単におさらいしておくと、奄美大島は鹿児島本土と沖縄の間の洋上に浮かぶ離島。加計呂麻島や徳之島、沖永良部島など周辺の島々を合わせて奄美群島と呼び、フェリーや飛行機を使って群島ホッピングも可能です。 そんな奄美大島、いざ行くとなると「アクセスが良くなさそう」「航空券も高いのでは」と心配の声が聞こえてきますが…。大丈夫です!日本のLCCを代表するPeachなら奄美への直行便があるのです。成田空港から約3時間、関西空港から約2時間、そして(時期にもよりますが)片道4,990円からとリーズナブル。これは、躊躇していたら損! そこで、ハナコラボ パートナーである藤井茉莉花さんが奄美大島2泊3日の旅へ。 奄美に魅せられて移住し、現在は多拠点でライターや通訳士として活動する藤原志帆さん(https://enjoy-amami.com/)に教わったおすすめスポットをまわります。 今回は海鮮丼、島唄割烹、お土産のセレクトショップなど、グルメ&お買い物編をお届けします。 公式サイトはこちらTravel 2023.03.07 PR
記事1_top_1Peachで行く、奄美大島 (直行便!) の旅① | 島とうふにスパイスカレー、超地元スーパーでおかいもの。2021年に世界自然遺産に登録された鹿児島県の奄美大島。一年を通して比較的温暖で、豊かな森も美しい海も楽しめ、旅先に選ぶ人が増えています。 簡単におさらいしておくと、奄美大島は鹿児島本土と沖縄の間の洋上に浮かぶ離島。加計呂麻島(かけろまじま)や徳之島(とくのしま)、沖永良部島(おきのえらぶじま)など周辺の島々を合わせて奄美群島と呼び、フェリーや飛行機を使って群島ホッピングも可能です。 そんな奄美大島、いざ行くとなると「アクセスが良くなさそう」「航空券も高いのでは」と心配する声が聞こえてきますが…大丈夫です! 日本のLCCを代表するPeachなら、奄美への直行便があるのです。成田空港から約3時間、関西空港から約2時間、そして(時期にもよりますが)片道4990円からとリーズナブル。これは、躊躇していたら損! そこで、ハナコラボ パートナーでフォトグラファーでもあるもろんのんさんが奄美大島2泊3日の旅へ。 奄美に魅せられて移住し、現在は多拠点でライターや通訳士として活動する藤原志帆さん(https://enjoy-amami.com/)に教わったおすすめスポットをまわります。 まずは、島とうふの定食にスパイスカレー、超地元スーパーでショッピングなど、グルメ&お買い物編をお届けします。公式サイトはこちらTravel 2023.02.28 PR