日本の文化や自然を継ぐために! 寿福を宿す淡路人形浄瑠璃
淡路島[兵庫県]/旅こそ、SDGs。#1 TRAVEL 2023.03.16

瀬戸内海の東部に位置する、淡路島。この島には、知る人ぞ知る国の重要無形民俗文化財がある。それが、淡路人形浄瑠璃。太夫、三味線、人形遣いの三人が呼吸を合わせて一体の人形を操る、三業一体の伝統芸能。まるで命を吹き込まれたように、生き生きと動く人形の世界に魅了されること請け合い。伝統を守りながら、次世代へとつなぐ新たな挑戦を続ける淡路人形浄瑠璃の世界へ!

南あわじ市は、鳴門海峡を挟んで徳島県と向かい合う淡路島の南端に位置する町。瀬戸内海に囲まれた島だけあり、自慢はやはりおいしい地魚。上陸して最初のランチは、漁業でにぎわう福良港(ふくらこう)の人気店〈ひらまつ食堂〉へ。平松さん一家が家族で切り盛りする食堂は、1952年の創業。日替わりの地魚や旬の天然魚を自由に組み合わせられるボリューム満点の丼ものに、おばあちゃんが代々受け継いでいるというモダン焼きも隠れた人気メニュー。お腹いっぱいに瀬戸内海の海の幸の洗礼を受けたところで、この旅の目的地〈淡路人形座〉を目指す。ぐるぐると渦を巻く「鳴門海峡の渦潮」のうずしおクルーズへ出航する大型帆船「咸臨丸」と「日本丸」が発着する福良湾。港の〈道の駅福良〉の前に立つのが〈淡路人形座〉。淡路島に唯一残る人形座(人形浄瑠璃を上演する劇場)だ。

そもそも人形浄瑠璃とは何か?幕末に植村文楽軒という人物が大阪で始めた「文楽座」が有力となり、以降、文楽という呼び名が一般的となるが、その成り立ちは江戸時代初期といわれ、歌舞伎とほぼ同時期。浄瑠璃という語り物と人形が結び付き、義太夫節(ぎだゆうぶし)と近松門左衛門の作品によって全盛期を迎える。その後いくつもの人形浄瑠璃の一座が盛衰を繰り返すなか、上方と密接な関係をもって発展してきた淡路人形浄瑠璃は約500年の歴史を誇り、全盛期には島内に40以上の人形座が活動していたそう。同時に、淡路人形浄瑠璃は江戸時代前期から西日本を中心に巡業し、浄瑠璃文化を各地に伝えてきた。そんな淡路島が誇る伝統芸能に注目したのが、南あわじ市出身のアーティスト・清川あさみさんだ。2020年に「南あわじ市地域魅力プロデューサー」に任命された彼女が、活動の一環として、国の重要無形民俗文化財にも指定されている淡路人形浄瑠璃を総合プロデュースし、新演目『戎舞+(えびすまいプラス)』が完成した。と、前置きが長くなったが、込み入った歴史やうんちくはひとまず置いておいて、まずは、百聞は一見にしかず。

人形に命を吹き込む、三業一体の総合芸術。

『戎舞+(プラス)』の元となっているのが、大漁や航海の安全を祈り、古くから神事として奉納され島の人々に親しまれてきた『戎舞』という演目。そこに、淡路島の国生み神話を融合させて完成したのがこの新演目だ。いとうせいこうさんの脚本によるわかりやすい現代語の語りと、清川あさみさんによる華やかな衣裳と舞台演出で、観る者を幻想的な世界へと誘(いざな)ってくれる。神妙な国生みのシーンから一転、お神酒(みき)を飲み、太鼓のリズムに合わせてメデタシ、メデタシと楽しく舞う戎様の姿を見ていると、思わず踊り出したくなる楽しさがある。ちなみに意外と知られていないが、日本最古の歴史書『古事記』に記された国生みの神話(日本列島を構成する島々を創成した物語)によると、伊邪那岐(いざなぎ)と伊邪那美(いざなみ)の夫婦神によって作られた8つの島のうち、最初に生まれたのが淡路島。つまりこの島は、日本発祥の地というわけ。

力強い義太夫の語り、腹の底に響く三味線の音色、人間以上に哀歓を描く人形が三業一体となる驚くべき総合芸術の世界。淡路の人形浄瑠璃は歴史を継承するだけでなく、命の通った伝統芸能として次の世代へつなぐために、再生をくり返している。
「新演目によって若いお客様が増えて、想像以上の反響に正直驚きました。当初は花博20周年のための特別公演でしたが、好評を博し、人形座で定期的に上演するようになりました」と、この道30年の人形遣い・吉田幸路(こうじ)さんは話す。人形座で活躍する人形遣いや太夫は、ほとんどが島内の出身者だ。

「人形遣いは三人で一体の人形を動かします。足遣いから始めて7〜8年、左手を扱う左遣いを取得するまでさらに7〜8年。その後人形のかしらと右手を遣う“主遣い(おもづかい)”を習得し、心を表現するのには一生かかるといわれています。淡路人形浄瑠璃の後継者を育成すべく、座員が子ども会や小中学校などに出向いて直接指導を行っています。島の高校には郷土部という部活もあるんです。プロを目指そうという若者はまだまだ一握りですが、おかげさまで後継者は着実に育っていると思います」

かくいう吉田さんも、中学時代に人形浄瑠璃に出会い、プロを志した一人。『戎舞+(プラス)』で堂々たる語りを響かせていた太夫の竹本友禧(ともき)さんも、弱冠20歳の期待の新星だ。この地域の人たちにとって、人形浄瑠璃は幼い頃から触れているとても身近な伝統芸能なのだ。

内海の漣(さざなみ)を聴きながら島の恵みに舌鼓。

淡路島から徳島方面へは大鳴門橋、神戸方面へは明石海峡大橋でつながり、いずれもアクセスが良い。日帰りでも十分楽しめるが、せっかくなら島内に宿を取り、のんびり島時間を満喫したい。南あわじエリアには代々続く民宿が点在し、新しいゲストハウスなども増えているが、ぜひとも一泊したいのが〈南海荘〉。島の西南端、丸山港にある予約困難な人気の宿だ。地元の左官や木工作家による家具で設えられた客室は、ギャラリーのように洗練されつつも客人を温かく迎え入れる和やかさがある。そして、一度味わったら途端に心を掴まれてしまうのが、オーナーシェフ・竹中淳二さんの料理だ。魚、野菜、肉、地元から集まる四季折々の食材が、竹中さんの手によって美しく、繊細に、そして味わい深い一皿となって運ばれてくる。いわゆる民宿料理を想像していると、目も舌も、きっと驚いてしまうだろう。深みと優しさが絶妙な塩梅で、ワインがスルスルと喉を過ぎていく。シェフの人柄をそのまま味わっているようだな、と想像していると、ボトルを片手に気さくな笑顔の竹中シェフが顔を出す。「島の楽しみ方、おいしい瞬間は人それぞれ。ここで過ごすひと時が皆さんの旅の記憶に残ってくれたらうれしいですね」と、ニコリ。

穏やかな内海に沈む夕暮れを感じながら、ゆっくりと暮れていく瀬戸内海の夜を堪能したら、翌日は鳴門海峡を見下ろす絶景スポットへ繰り出そう。

【食べる】ひらまつ食堂

海鮮料理とお好み焼きが自慢の食堂。

住所:兵庫県南あわじ市福良丙28-19 
TEL:0799-52-0655
営業時間:12:00〜14:00LO、18:00〜21:00LO 
定休日:月休

【観る】淡路人形座

住所:兵庫県南あわじ市福良甲1528-1地先 
TEL:0799-52-0260
営業時間:19:00〜17:00
定休日:水休
入場料:1,800円
https://awajiningyoza.com/

【泊まる】南海荘

料理内容は季節に応じて異なる。

住所:兵庫県南あわじ市阿那賀1603 
TEL:0799-39-0515 
宿泊料金:1泊1名 25,300円〜(2食付き) 
https://nankaiso.com/

【訪れる】戦没学徒記念 若人の広場公園

〈戦没学徒記念 若人の広場公園〉は福良湾を一望する絶景スポット。丹下健三が設計した高さ25mの「慰霊塔・永遠のともしび」がそびえる。
〈戦没学徒記念 若人の広場公園〉は福良湾を一望する絶景スポット。丹下健三が設計した高さ25mの「慰霊塔・永遠のともしび」がそびえる。

公園内には戦没学徒の遺品が展示されている資料館もある。

住所:兵庫県南あわじ市阿万塩屋町2658-7
TEL:0799-39-0515 
営業時間:9:00〜17:00
定休日:無休

【食べる】VERDE TENERO(ベルデテネロ)

シングル430円〜。毎日焼きたての手作りワッフルコーンも人気。

住所:兵庫県南あわじ市志知鈩1-10 
TEL:0799-36-0648
営業時間:11:00〜17:00 
定休日:火金休

【参る】伊弉諾神宮(いざなぎじんぐう)

境内にはイザナギ・イザナミの二神が宿る御神木として樹齢約900年の夫婦大楠がある。

住所:兵庫県淡路市多賀740
TEL:0799-80-5001

うずの丘 大鳴門橋記念館

玉ねぎをテーマにした店や企画が満載。

住所:兵庫県南あわじ市福良丙936-3 
TEL:0799-52-2888 
営業時間:9:00〜17:00(店舗ごとに異なる) 
定休日:火休

旅こそ、SDGs。

“旅をする”とは即ち、その土地を訪れ、実際に見て、触れて、食べて、人と出会って話を聞いて、その思い出を持ち帰ること。日本各地の豊かな文化や貴重な自然を次の世代に残していくために、できる行動は何だろうと考えたとき、“旅をする”ことだと気がつきました。自分を豊かにしてくれる旅が、地域の継承にもつながっていく…。そんなSDGsな旅、西日本の4つの地域からお届けします。

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photo : Kiichi Fukuda text & edit : Chisa Nishinoiri

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