子どもの自死に寄り添う、詩人・谷川俊太郎の言葉。/第10回 ヒコロヒーのナイトキャップエンタメ SUSTAINABLE 2023.03.29

疲れた心と体に染み込む、ナイトキャップ(寝酒)代わりのエンタメをヒコロヒーが紹介。第10回は、昨年ETV特集で放送されたドキュメンタリー『ぼくは しんだ じぶんで しんだ 谷川俊太郎と死の絵本』HP

『ぼくは しんだ じぶんで しんだ 谷川俊太郎と死の絵本』

第10回ヒコロヒー

『二十億光年の孤独』から「マザー・グース」の翻訳まで、日本を代表する詩人・谷川俊太郎さんの好きな作品を挙げようとしたら枚挙にいとまがない。軽妙洒脱でユーモアがあってどこかスケベで、読んでいるといつもニヤニヤしてしまう。本作はそんな谷川さんの新作絵本(テーマは「子どもの自死」)制作の2年間を追ったもの。この特異な絵本誕生のプロセスを通して、私たちは自身の死生観を強く揺さぶられることになる。
死と向き合う谷川さんの言葉はことのほかやわらかい。孤独とか悲しみとか、そんなことは感じさせない文章で、読む人の心にそっと寄り添ってくれている。何度もイラストの描き直しをお願いする姿からも、読者に死をわかりやすいイメージで捉えてもらいたくないという作者の思いが感じられた。家庭環境やいじめなど、自死には理由があると言われているが、本当にそうだろうか。生きるのに理由がないように、自死を選んでしまうことにだって明確な理由なんて多くの場合ないのかもしれない。完成した絵本は、読者がわかったつもりになることを拒むように、世界のわからなさをわからないままに伝えてくれていた。
死は普段どんなにぞんざいに扱っていても、ふとした瞬間によぎるもの。そんなとき、この絵本のように寄り添ってくれる言葉があれば、私は生きていける気がした。

text:Daisuke Watanuki

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