「 ご褒美スナエンパスタ 」 児玉雨子のきょうも何かを刻みたくて|Menu #1 FOOD 2023.03.08

「生きること」とは「食べること」。うれしいときも、落ち込んだときも、いそがしい日も、なにもない日も、人間、お腹だけは空くのです。そしてあり合わせのものでちゃっちゃと作ったごはんのほうがなぜか心に染みわたる。作詞家であり作家の児玉雨子さんが書く日々のできごととズボラ飯のこと。

スナップエンドウは食べやすいように半分に切る。切る感覚も食感もしゃきしゃきと小気味よくて大好きだ。生食できる超肉厚ホタテとふわふわのしらすをどっさり。激痛を耐え抜いたご褒美だ。
スナップエンドウは食べやすいように半分に切る。切る感覚も食感もしゃきしゃきと小気味よくて大好きだ。生食できる超肉厚ホタテとふわふわのしらすをどっさり。激痛を耐え抜いたご褒美だ。

春の息吹に心弾ませ、芽吹く無駄毛を焼き尽くせ。

軽やかなコートでも過ごしやすい季節がやってきた。ベタだけど、春は何か新しいことを始めたくなる。
 
ここ数年、今まで避けてきたことやコンプレックスを年にひとつは克服するようにしている。昨年までFP(ファイナンシャル・プランナー)や簿記の資格を取ってきたが、今年は何をしようかな、と考えながらふと鏡を見ると、降ってきたのか湧いてきたのかわからない衝動が駆け巡る。
 
顔脱毛だ!身体に課金しよう!
 
すぐにクリニックに顔脱毛の予約を取り付ける。そこは日本ではめずらしいヘアライン(髪の毛)の脱毛ができるクリニックで、カウンセリング・契約・予約を一気に済ませ初回の施術へ。医療脱毛の経験はあるので、あの痛みも重々承知だ。追加料金を払えば麻酔を塗ってもらえると聞き、痩せ我慢せずにお願いした。
 
ベッドに横になり、マーキングした範囲を電動シェーバーで剃毛され、ほくろにシールを貼られ……いつ麻酔を塗るのかな?と看護師のほうを見上げると、彼女は優しく微笑み「試しに打ちますね~」といきなり頬に照射。細い針を刺されたような痛みと、立ち込める焦げ臭さ。背中に冷や汗がドッと流れる。涙目で「ま、麻酔は……?」とおそるおそる訊くと、看護師は慌てて受付に確認に向かう。どうやら伝達がうまくいっていなかったようだ。
 
改めて麻酔を塗ってもらい、再開。それでもバチバチッと鋭い痛みが顔中に走る。なんとか戦いを終えて鏡を覗くと、脱毛だけでなく、薄いシミや毛穴がレーザーで消えて顔全体がトーンアップしているではないか。副次的効果に感動し、帰宅途中も窓ガラスに映る自分につい目が留まってしまった。完全ナルシスモードだ。
 
調子に乗って、自分へのご褒美に外食でもしちゃおっかな?と考えながら歩いていると、駅のホームに着いてしまう。近所で済ませようかな?と思いつつ電車でうとうとしていると、最寄駅に着いてしまう。結局いつものスーパーに来てしまったなぁ、と落胆していると、表に春野菜が陳列されている。少々高価だが、スナップエンドウのパックをレジに持って行った。帰宅して、ちまちまと食べているふるさと納税返礼品の大粒ホタテを5つも使いパスタを作った。冬の寒さと痛みに耐え、今年も邂逅できた春の味覚だ。
 
脱毛完了まで約1年半かかるらしい。「何かを切り刻む」という連載だが、自分の毛を焼く始まりとなった。

photo & text : Ameko Kodama edit : Izumi Karashima

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