いいね!は社会の映し鏡。 カルチャー発ソーシャル行 Meet #5/
わたしは最悪。+僕の心臓は右にある CULTURE 2023.02.28

映画、小説、音楽、ドキュメンタリー…あらゆるカルチャーにはその時代の空気や変化が反映されています。そんな「社会の写し鏡」ともいえる、秀逸な作品を編集部Sが紹介。

映画『わたしは最悪。』、チャンス大城。後からじわじわくるものは強い。

観終わった後、整理がつかず、感想も出てこない。けれど頭の片隅にはあって、なんならどっかり居着かれてしまったような、そんな映画が『わたしは最悪。』だ。医者→カウンセラー→書店→カメラマンと次々と環境を変えていく主人公・ユリヤは職業だけでなく、恋愛も相手選びから終わらせ方までことごとく、「間が悪い」。「なんでわざわざそっち選ぶかなあ」と全力で突っ込んでいるうちに、だんだん愛想が尽きてきそうにもなる(笑)。が、誰かと感想を言い合うと、この映画の魅力は急上昇する。「直感ほどあてにならないものはない」「人生は選択の連続だ」「たいていのことは上手くいかないと見積もっておくと楽だ」「あがってるのか、さがってるのか、本人も誰もわからない」「生きてるだけで丸儲け(これはさんまか)」。誰に聞いても、新説や新解釈が出てきて、そのたびに作品が新しい輝きを帯びる。多面的で複雑で、後からじわじわくる映画だった。

『わたしは最悪。』/『リプライズ』『オスロ、8月31日』に続く、ヨアキム・トリアー監督の「オスロ三部作」の第3作。第74回カンヌ国際映画祭でレナーテ・レインスヴェが女優賞を受賞。公式サイト

「後からくる」といえば、超遅咲き(現在47歳)の芸人、チャンス大城のブレイクぶりが凄まじい。「こんなオモロイやつが今までどこに潜んでいたのか」(千原せいじ)という通り、貧困だった少年時代から、酒に溺れた芸人時代までの破壊的なエピソードを綴った自伝『僕の心臓は右にある』には人間の喜怒哀楽すべてが詰まっている。やはりか、この本も私の中に居着いてしまったのだった。

『僕の心臓は右にある』/チャンス大城が本名の大城文章名義で書いた自伝的エッセイ。タイトルは実話で、同じく心臓が右にある人を探すプロローグは必読。(朝日新聞出版/1,540円)公式サイト

[今月の担当]編集部S/ドキュメンタリー好き。「ハイツ友の会」という女性コンビの「京都のいけず」を寸分なく現出させた京都弁漫才に射抜かれました。全力応援。Twitter:@bakatono72

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