第5回 写真家・田尾沙織の『Step and a Step』500gで生まれた赤ちゃん 【田尾沙織のStep and a Step・5】きみはヒーロー MAMA 2021.01.08

写真家・田尾沙織さんに、500gで生まれて、軽度の知的障害とADHDだと言われている息子、奏ちゃんの子育てと日常について綴っていただくこの連載。
2人の日常を、田尾さんによる色鮮やかな写真と共にお届けします。

最近奏ちゃんは、横で遊んでいて聞いていないように見えて、大人の会話に急に入ってきて、「それどういういみ?」と聞いてくるようになりました。

先日はテレビで「ヒーロー」という言葉が聞こえて、「ヒーローってなに?」と聞いてきたので、「ヒーローは奏ちゃんみたいに、強くて優しい人のことだよ」と教えました。奏ちゃんは急に満面の笑みになって「ママだいすき!」と抱きついてきました。

本当は物を投げてしまったり、私やお友達をたたいてしまうこともあるので、「そういうことをやらないのがヒーローだ」とか言うこともできたのですが、いい部分をほめて自信をつけて欲しいと思いました。

私の両親はいわゆる普通の古風な日本の家庭という感じで、今の私の様な「だいすきだよ~」とか子供に対して言葉に出してハグしたりするような家庭ではありませんでした。

小学生の時、テレビに出ていた女優さんを見て父が、「お前はこんなに美人にならないだろうな~」と笑いながら言ったのを覚えています。別にそれは冗談だし、私は全く傷ついてはいないのですが、(誤解がないように書くと、愛情を持って育ててくれたと思っています)ただ、そういう卑下する家庭だったのです。

幼稚園の時に「大きくなったらお花屋さんになりたい」と私が言うと母は、「お花屋さんは朝早いし、水も冷たいし、大変だからなれないわよ」と言いました。

中学の時に「デザインの仕事がしたい」と言っても、高校の時に「カメラマンになる」と言っても、「なれるわけがない」と反対されるだけでした。

あまりほめられた記憶は残っていません。

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20代の時、帰国子女の男性とお付き合いをした時にその人の家庭に驚きました。日本人離れしているその家庭では、彼をリスペクトして”さん”付けで呼んでいて「頭も良くて、かっこよくて、なんでもできる」と日常的に言葉に出して彼に接していました。

彼に「かわいい」とか「きみなら何でもできるよ!」と全てポジティブに言われても、フランス人の超絶美人な元カノとか紹介されてしまうと、「この私のどこがいいんだろうか…」と自信など湧くわけがなく、「何でそんなにきみは自信がないの?」とよく言われていました。

そしてふと、子供の時に「将来美人にならない」とか「できない」と言われて育てられたことが潜在意識の中にあるんだろうなと気がつきました。

外国人に多くいる女子みたいに「私は美人でしょ~ゴージャスでしょ~見てよ~!」みたいな感じにはなれません。私も典型的な日本人なのです。

奏ちゃんが、パイロットになりたいとか、ミュージシャンになりたいとか、そう思う日が来たとしても、大人になれば現実を知る日がいつかは来るから、そんな日が来るまでは、

「きみはかっこよくて、なんだってできるヒーローだよ」

と言ってあげたい、そう思っています。

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