物語を味わうように、一皿一皿を愛でる。 とっておきのスイーツコース&カウンターデセール4選【Sweets Course】 FOOD 2023.02.25

今、スイーツ通たちを虜にしているのがカウンターで楽しめるアシェット・デセール。パティシエの経験と感性で編み出された出来たてデザートは、香りや温度も加わった“瞬間の芸術”。

スイーツコース&カウンターデセール4選

1. VERT(神楽坂)

東京・神楽坂の路地奥のビル2階に現れたのは、余白の美を意識した空間。ここは日本茶を織り交ぜたデザートコース専門店。新宿のカウンターデザート店〈ジャニス・ウォン〉、六本木のフレンチ〈ジャン・ジョルジュ トウキョウ〉、上野毛〈ラトリエ・ア・マ・ファソン〉などで腕を磨いた店主・田中俊大さんの店だ。

パティシエである彼が日本茶の魅力に目覚めたのは4年ほど前。同じ日本茶でも作り手や畑、抽出方法によって味も風味も変わる。どんな料理とも相性がいい。ブレンドによっても違った個性が引き立つ。日本茶が持つ奥深さに、食材として大きな可能性を感じた。 「日常茶飯事という言葉があるくらい、我々にとって日本茶は身近な存在。僕の店は日本文化を発信する場所でありたい」と語る。

この店で提供されるのは、お茶とペアリングした全7品のデセールコースのみ。最初は品評会などで賞を取った特別な煎茶を一服。その後は全国のフルーツや食材、調味料(!)までも駆使したデセールが登場する。彼のコースには生クリームやバターを使ったスイーツは一切登場しない。例えば、メロンのアイスやハーブのパンナコッタ、赤味噌で味付けした柚餅子、柿の天ぷら、栗と酒粕の温かいモンブラン、イチゴと抹茶の羊羹……。いやはや、これはもはやデザートというより料理といっても過言ではないものも多い。甘味と酸味と塩味の絶妙な配分、濃淡のバランス、温度差による香りの変化など、フレンチさながらの端正なコースに、デセールの概念を覆されたと驚く人も多いという。彼のデセールは、足で見つけ出した全国各地の旬の果物が主役。ほとばしる果肉の甘さを最大限に生かすべく、茶や茶葉、ハーブ類を隠し味に忍ばせた繊細な仕事ぶりは、ほかでは決して真似できないものだ。

「西条柿は島根県の〈加島茶舗〉に行った時に紹介してもらった農家の品です」「岐阜県の道の駅で食べた五平餅がおいしくて。柚餅子はそこの地味噌を買って研究しました」など楽しそうにカウンターで披露されるのは、全国の茶畑を飛び回るシェフが各地で見つけた食材の話。このコースはまさに彼の旅の体験を映したもの。「飽き性だから」とコースを月替わりにするのは案外、食材探しの旅に出たい彼の口実なのかもしれない。

全国を旅して出会った、 楽しい記憶を昇華させたコース。

茶湊流水
1品目:秋作メロンとアニスヒソップのパンナコッタに知覧茶のソースを。2品目:赤味噌で仕上げた柚餅子にセミドライにした宮古島ピーチパインとローゼルの花を添えて。3品目:西条柿を天ぷらに。ソースは焙じ茶とラベンダーのアングレーズ。4品目:新潟奥阿賀栗の温かいモンブラン。焼いた栗の鬼皮と栗の甘露煮、多田錦(柚子)に花垣純米大吟醸酒粕のフォーム掛け。5品目:抹茶ととちあいかの羊羹ゼリー。ルージュロワイヤル(薔薇)の泡ソースで。6品目:ル・レクチェと烏龍茶のパフェ。7品目:京山椒と大徳寺納豆のダックワーズ。

2. Nami zaimokuza(鎌倉)

フードディレクター・さわのめぐみさんはイタリア料理店で働いた後、本場イタリアで2年間修業。帰国後はイタリア料理に限らず、都内で様々な料理を扱うケータリングや、テーマを打ち出した食のイベントなどで忙しく活動を続けてきた。そんな彼女が鎌倉に移住し、2021年、新しい活動拠点として材木座に店をオープン。週末限定で営業する喫茶室では全7品のコースが楽しめる。
「私はパティシエではなく料理人なので、これはデセールコースというよりデザートがメインのコース料理、と解釈しています」。そう彼女が言う全7品のコースは冷たい前菜デザートに始まり、肉や魚介、卵を使った料理、リゾットなどの米料理、季節のパフェ、スープ、焼菓子という流れ。旬の味を盛り込みたいからとデザートにも野菜をたくさん使用する。

例えば12月なら、最初の冷製皿には季節の野菜のパンナコッタを用意。その上に紅まどんなというみかんを炙ってのせ、寒天のヴェールをかける。仕上げにはライムをギュっとひと搾り。喉越しも良く、柑橘の風味が爽やかに香る。

コースの中でも一番の華はパフェ。写真のイチゴパフェには、ライチとラズベリーのソルベや、イチゴとローズマリーのジュース、チョコレートと紅茶のスポンジなど、約20種以上ある食材を様々に加工し、一体感を生み出している。
「パフェは上から順番に食べることしかできないでしょ? その常識に抗ってみたくて」と、パフェの中心にはガラスのストローを挿し、好きなタイミングで底部分のデザートも味わえるよう工夫したオリジナルの構造もユニークだ。

パフェの後は、口直しに塩味のある皿を用意するのもポイント。この日はトマトとイチゴのガスパチョに、ストラッチャテッラというチーズでアクセントをつけた。最後は焼菓子と和菓子、チョコレートの3点で締めくくる。
「メニューは散歩していると、ふとひらめくことが多いです。都内にいる頃は体調が悪く、アイデアが行き詰まることも。それが鎌倉に来て、不思議と解消されたんです。改めて、料理は自然とつながっていると実感しました」とさわのさん。おいしい皿にはいつも自然の風が吹いている。鎌倉のスローライフが教えてくれたことを、このコースで感じ取って。

週末限定、4席だけが味わえる 旬の味覚を満喫するコース。

休日喫茶室
1.ゴボウの自家製パンナコッタに紅まどんな(みかん)と寒天を重ねて。2.パイとチョコクリーム、ラズベリーとライチのソルベなどをのせたイチゴのパフェ。3.フルーツトマトとイチゴのガスパチョスープ。4.モンブランのタルト、グーズベリーと白餡の最中、ゴルゴンゾーラチーズのチョコレート。全皿にペアリングのドリンク付き、アルコールに変更も可。(※1と2の間に肉or魚介の料理と、米料理の2品が入った全7品で構成)

3. As(恵比寿)

提供直前にベルガモットの皮をすりおろす青木シェフ。ほかにも栗を揚げる、フィナンシェを網で焼くなど出来たてにこだわった演出が続く。ビジュアルはもちろん見た目や温度や香りなど、五感すべてが喜ぶコース。
提供直前にベルガモットの皮をすりおろす青木シェフ。ほかにも栗を揚げる、フィナンシェを網で焼くなど出来たてにこだわった演出が続く。ビジュアルはもちろん見た目や温度や香りなど、五感すべてが喜ぶコース。

昨年11月にオープンしたばかり。店主の青木繁さんは、〈ストリングスホテル名古屋〉のレストランシェフパティシエ、南青山〈UNGRAIN〉と九品仏〈INFINI〉でスーシェフを務めるなど、名だたる店で腕を磨いた実力派。

彼がここで用意するのは季節の1コースのみ。沢山のハーブやスパイスを使い、複雑かつ斬新な味わいを追求する。まず最初は「前菜のサラダみたいな役割の一皿」と言うさっぱりとした品が登場。写真のマリネしたラ・フランスとマルメロのシャーベットには、食べる直前にベルガモットを削り、爽やかな香りを印象づけている。2品目には塩味のある品がお目見え。クレープ・シュゼットにはバターもたっぷり使用。ソースには複数のチーズや黒胡椒も使い、料理のような一品に仕上げている。彼のコースにはライブ感があるのも魅力。例えば栗のパフェはゲストの目前で栗を揚げ、それを手早くカットしてオン。最後のフィナンシェもあえて網で焼き、焦げ目をつけて提供する。そのダイナミックな演出にお客さんからはいつも感嘆の声が!

スパイスやハーブもたっぷり使用。 複雑で斬新な味わいを目の前で。

季節のデザートコース
1品目:マリネした山形県天童市のラ・フランス、高知県産ベルガモット、マルメロのシャーベットに菊花を散らして。2品目:和歌山みかんとパルミジャーノ、ナッツ、クリームチーズのクレープシュゼット。仏産マンステールのソースで。3品目:鬼皮のブランマンジェ、柿、揚げ栗を使ったモンブランパフェ。4品目:焼きたてくるみのフィナンシェ&加賀棒茶。ドリンクはメニューから別途選択可。※内容、食材は季節で替わる。

4. un plato(蔵前)

最後は栗のバターサンドと、長野県〈大村農園〉オリジナル品種の種なしぶどう「華鈴(かりん)」を求肥と白あんで包んだ大福スタイルで。素材のポテンシャルを最大限に引き出した質実剛健なアレンジの数々。
最後は栗のバターサンドと、長野県〈大村農園〉オリジナル品種の種なしぶどう「華鈴(かりん)」を求肥と白あんで包んだ大福スタイルで。素材のポテンシャルを最大限に引き出した質実剛健なアレンジの数々。

かつて新宿のデセール専門店〈ジャニス・ウォン〉のオープニングスタッフだったというパティシエの森井美紀さん。その時からデセールに魅了され、昨年11月にアシェット・デセール専門のこの店を立ち上げた。彼女が目指すデセールは野菜や果物ありき。野菜がもつ可能性をデザートに集約させたコースは、調理法や組み合わせで素材の旨味を最大限に活かす。

例えば、甘い柿は糖度と食感を活かすため、火を入れずスパイスとともにラム酒漬けに。器の蓋として柿のスライスを使うのも生の食感を試してもらいたい工夫からだ。また、冬ゴボウを使ったショコラタルトは、濃厚なゴボウのカスタードとゴボウのアイスを重ねたもの。周囲にはアマゾンカカオとココアクッキーを撒いて、土をイメージした。ちなみに過去には砂糖不使用のカリフラワーのリオレを作り周囲を驚かせたことも。「目指すのは、料理じゃなく、野菜の味がするちゃんとおいしいデザート。そのためのアイデアは常に考えています」と森井シェフ。春、夏とこれからのシーズンに展開する新しいコースも見逃せない。

野菜が持つ可能性に着目した、 食材第一のデザートコース。

秋の終わり冬の始まり
全4品で6,000円。1品目:里芋と鹿島在来自然栽培豆乳の温スープ。濃厚なスープにはコーヒークランブルをトッピングし甘さを引き締める。2品目:紀の川柿をアニスとクローブとラムで漬けたもの。3品目:ゴボウとアマゾンカカオ。ベースはアマゾンカカオのショコラタルト。その上にゴボウのカスタード&アイスをオン。Moi京番茶×ルイボスティーとのペアリングで。4品目:ミニャルディーズも鹿児島の煎茶おくみどりとペアで。

photo : Yuko Moriyama(VERT, un plato), Kayoko Aoki(Nami zaimokuza), Michi Murakami(As) text : Kimiko Yamada

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