花井悠希の朝パン日誌 vol.48 ようこそ我が家へ!…〈充麦〉と〈マツパン〉 LEARN 2019.06.17

私のパン好きを知ってくれている友人から届いた知らせ。なかなか訪れる機会がない街のパン屋さんに、近くへいくから買ってこようか?と。そんな有難い知らせを受け取り瞬きするより早く(←盛りました)お願いの返信をし、この度福岡と三浦半島から初夏のパン便りが届きました。

いつか食べてみたかったあのパンが、海を越え山を越え、はるばる我が家の朝のテーブルに並んでいる奇跡。両手を合わせ、優しいあの子に届ける気持ちでいつもより「頂きます」の声を響かせてから、ゆっくりじっくりと味わいました。

終点のその先へ…〈充麦〉

京急線の終点「三崎口駅」からさらに20分くらい歩かないとたどり着くことのできないパン屋さん〈充麦〉。なかなかハードルの高い立地ですが、出かけた友人が私の代わりに行ってきてくれました。こちらは種蒔きから始まり自家製で育てられた小麦でパンを焼いていらっしゃるお店。店頭に並ぶまでにも沢山の時間と愛情がかけられたパンが、友人の手に運ばれさらに私の元へ。距離だけじゃなくその過程も含めたら目の前にあるパン達は長い長いリレーを経てここにきてくれているんだ。奇跡に触れるような気持ちでいただきます。

「ベーコンエピ」
「ベーコンエピ」

そのまま食べると生地はギュッと締まっていて、他を寄せ付けない程の逞しさに後ずさりをしてしまいそう。でも食べ進めると少しずつその緊張感は、小麦の旨みが滲み出すテンポと一緒に緩んでいき、噛めば噛むほどもっと知りたくなっちゃう誘惑に惑わされます。どこまで自分が噛めるのか挑戦したくなる。というのも、小麦の旨みが名残惜しい口内と早くこっちに頂戴と急かす喉仏が取り合いしているのでね。いつまで噛み続けていいの?という悩みがうまれるんです(なんと幸せな悩み)。

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少し温めてみると第2形態へ。全粒粉がさらに高く香りを放ち、目の詰まった生地は熱によって軽やかに立ち上がると柔らかみを帯びて歯切れ良さが生まれています。そこに!ベーコンの脂がとろけ出し、それを一滴残らずぎゅんぎゅん吸う生地。ベーコンと全粒粉の相性の良さを見せつけてきます。ベーコンエピだから、てっきりベーコンが主役かと思いきやその比重はフィフティフィフティ。ベーコンが前に出すぎることもパン生地が前に出すぎることもなくタッグを組んでこそ発揮する旨み。何この仲の良さ!妬かせたいのか!!

「そら豆とドライトマトとチーズ」
「そら豆とドライトマトとチーズ」

ドライトマトがくぅー!全てを持っていくぜ。でもね、私は気づいてあげられたのです(褒めて)。密やかにドライトマトの下に敷かれたベーコンが、この太陽のエネルギーをギュッと閉じ込めたような口内で弾ける甘酸っぱさをベーコンの脂でふくよかに和ませていることを(褒めてパート2)。

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酸味と塩気、どちらも感じる生地はこちらも小麦が力強く、そら豆が一瞬ほろっと香りと食感で変化球を投げ和ませてくれますが、残る余韻は小麦がそよそよ。ここの小麦のパワー恐るべしです。

「モーンデニッシュ」
「モーンデニッシュ」

これまでのエネルギーほとばしる小麦感と相反してこちらはしーっとりとデニッシュのような質感です。
デニッシュの波形(!?)一枚一枚がひらひらと柔らかいので幾重に重なっても歯切れよく、口内ではまったりとバターが油分をとろけさせながら消えていきます。練り込まれたけしの実がゴマのようでありながら、ゴマよりずっとオリエンタルな雰囲気の芳ばしさと風味でデニッシュのまったりした世界を侵食しにかかって来ます。だから逃げずに真っ向から受けてたつことをオススメしますよ(誰目線)。
トップはしっかり焼きで生まれた焦げの苦味がアップルパイの端っこのような焦がしバター感でたまらないし、そこに真っ白なアイシングが甘やかに溶けて口内に広がる苦味を調和してくれるから苦甘な余韻には酔いしれちゃう。そうだな、よく歌詞などに出てくるビタースイートっておそらくこれの事に違いない(おそらく違う)。

福岡は六本松よりハロー!…〈マツパン〉

上の子「マツパン君」と言うらしい。
上の子「マツパン君」と言うらしい。

福岡の六本松にある〈マツパン〉は行列が出来るほど人気のパン屋さん。「はい」って手渡されたパンの袋からしてキュートだし飛行機に乗ってここまで来てくれたという事実も相まってみんな食べちゃいたい程可愛い(食べちゃうんだけど)!

「きな粉パン」120円
「きな粉パン」120円

120円!この安心プライスもいい!生地は密度高く詰まっているのに、その一膜一膜が膨らみのある柔らかさを孕んでいて、圧迫感を一切感じさせないしなやかさにハッとします。

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きな粉の揚げパンに思い入れのある皆様は確実にセンチメンタルにさせられるあの味、ここにあり!でもグッと繊細な口溶けと香り高いきな粉にホロリときたセンチメンタルに傾いた心も慰められますよ。

「きび砂糖のクリームパン」
「きび砂糖のクリームパン」

甘いパン人気No. 1らしいこちら。きび砂糖の深みある甘みで旨みたっぷりに仕上げられたトロトロクリームに寄り添うのは、兄弟か?と間違うほどクリームと質感がよく似た生地。

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しっとりと潤いに満ち、むにゅむにゅと白玉のような弾力でクリームを薄く包み込みます。この薄さもクリームと境界線をあやふやにしている一因かも。

「明太フランス」
「明太フランス」

明太バターにそそのかされて、カリカリと揚げ焼きのようになった表面が芳ばしくてたまんない。少しねちっとむっちり粘度のあるクラムからはもちろん小麦が香るのですが、なんともスマートな小麦の立ち方をしているんですよね。明太子の方も、海の香りや旨みがしっかり届いて来るのに直接的じゃなくて、なんだか都会的に洗練されているんです。そんな印象の明太フランス、初めて。

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野暮ったさゼロの究極の"明太フランス界きってのシティーボーイ"と呼びたい。明太フランスが有名な〈パンストック〉さん出身のお店である〈マツパン〉さん、さすがです。

「ツナマヨ」
「ツナマヨ」

ふーん、ツナマヨねー、なんて知った顔してかかったら、撃ち砕かれますからねこの子には。ここにはおにぎりでおなじみのあのツナマヨはありません。身の詰まった歯ごたえ逞しい生地の中にぎっしり詰められたツナ。こう言ってしまうとなんですが、生きた魚の味がします(あ、正確にいうと生きていた魚の味)。

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魚を細かくほぐした所に絶妙な塩梅の塩胡椒、チーズがコクで深みを演出し、マヨでまろやかな酸味をプラス。
そこにちょこんと忍ばされたドライトマトが甘みと酸味の最後の一撃!わたくし、イチコロでありました。こんなソリッドなツナマヨ、私知らなかったよ。

「くず粉のロデヴ」
「くず粉のロデヴ」

一口食べて動きが止まってしまいました。なんせ一口目の最初の最初に舌が感じ取ったのは和菓子の様子だったから。それは葛餅のようで白玉のようなわらび餅にも似た吸い付き。だけどそこに現れる塩気と薄く包むクラストの香ばしさは間違いなくパンのそれで。でもこの香ばしさは大判焼きのようにも感じられるし、表面にまぶされた小麦粉だって香ばしさにほだされてきな粉かと勘違いを起こしそうになります。頭と舌が味覚の処理に追われパンクしそう!

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もっちりねっちりもったり食感。所々生地同士がくっついて、見た目にも葛餅のようになっている箇所もあります。美味しいオリーブオイルを纏わせば超高加水のフォッカチャのようでもある。

この子を色で例えるなら真っ白。混じりっけのない白をイメージさせる透明感のある味わいは、パンだけどパンじゃない美味しいなにか。真っ白だから故に、どうにも想像力を掻き立てられてしまうのかもしれません。余韻で口内に残る空気はホットケーキのようでもある。あなた何者なの?そう心を捉えて離さない、恐ろしい子。

「リッチ食パン」
「リッチ食パン」

しっとりなんだけど、体感したことのない歯ざわりと口心地。サクッといった後に出会う内側は、密集しているのですがその全ての繊維1つずつに柔らかな重みがあるから、しとっと重力を感じつつ、人口密度(人口ではない)高いのに圧迫感はなくて不思議と居心地がいいのです。カステラのような細かい生地感で、それを司る一つ一つの粉がほわっとちゃんと膨らんでいるから掴み所のない軽さがあります。甘さは舌に残らない程度にスマート差し出して。シンプルの中に、おっ?とフックがある食パンは人気No. 1の称号を手にする相応しい風格でありました。

お店には行けていないけど、パンから届く香りや舌で感じるキャラクター、目に映る佇まいなど、じっとそのパン達とにらめっこしてみたらそれぞれのパン屋さんの様子が見えてきそう。今度は自分でその想像との答え合わせをしに行かなくっちゃですね。でも優しさの心にのって私の手元に来てくれたパン達は、きっと普段以上に美味しい気がする。今度は私がとっておきを届けに行こう。パンがパンを呼ぶ。こんなパン交流、なんだか素敵じゃないですか。

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