花井悠希の朝パン日誌 vol.47 ずっとそこにいてね。…〈Boulangerie Coupe〉と〈La Boulangerie Pure〉 LEARN 2019.06.03

きっと明朝の私に感謝されるのだ。駅から家へ急ぐ帰り道、駆け足で買い物を終え慌ただしくもパン屋さんに寄った私に。

本来ならパン屋さんとは、日々の生活の身近な存在。空気のように水のように、当たり前のように必然な存在であるはず。誰かにとっては嗜好品なのかもしれないけど、私にとってはそこと同列にパンがにこやかに輝いた顔でこっちを向いて微笑んでいるのです。

久しぶりの休日にご褒美として友達とお出かけして行くパン屋さんも楽しいけれど、日常には必ずしも目が飛び出るほど美味しいものがなくていいんです。
毎日目が飛び出してしまっては困るのだ。日々の一コマに寄り添うパン屋さんにこそ、自分の本性を、ありのままを受け入れて欲しい。
今日の私の気持ちが分かち合える、或いはそう自分自身に話しかけられるだけで十分。
パン屋さんを覗くと、その街のカラーと同時に、その時の自分の気持ちまでも見えてくるかも!?

夕日が似合うパン屋さん…〈ブーランジェリー クープ〉

つつじヶ丘の駅から住宅街への道すがらにある小さなお店。大きなガラス窓からの光が穏やかに店内を包む優しい空気感に心が緩みます。

「クロワッサン」
「クロワッサン」

少し小さめでこんがりと色づいた焼き色、シンメトリーに整った形、お皿にのせるとさらに際立つその美しさ。朝とこの隙のないクロワッサンの佇まいって最高な相性だと思う。
力強い朝日に照らされたそれを前にすると、背筋が少し伸びると同時になんだか調子の良い一日になる気がしてくるんですよね。朝のポジティブな思い込みって1日を前向きに引っ張っていってくれる気がします。

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黒くしっかりと焼き目がついた部分はカリッと強めな歯応えですが、そこをぬけるとあとはもうサクサクが止まりません。さざ波のように続くサクサクは甘さ控えめで後味もさらりとライト仕様。バターが滲む旨みたっぷりタイプではなく、このバターは軽やかな波をうむための風のよう。かっこつけず出過ぎずな見えない立役者っぷりに敬礼!

「チーズinチーズ」
「チーズinチーズ」

もちもちと柔らかな弾力性溢れる生地とチーズが手を組めば私の心をふにゃんとさせるには十分すぎることを、もう知られているのか(そんな訳ない)。クロワッサンが私を凛とさせるならば、この子は私を和ませてくれる存在。蜂蜜が穏やかな表情をしながら真っ先にその甘みを投げかけてくると、焦ったように二種のチーズが私も私も合戦を始めます。もーう!私を取り合うのやめてー(一度は言ってみたい台詞)!

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一噛みに閉じ込められた甘さとチーズのバランス、それを上手に操るモチっと生地との一体感……そう、これこそ美しいハーモニーと呼ぶやつではありませんか(たまにはミュージシャンらしく)!?

「黒豆ぱん」
「黒豆ぱん」

黄色みがかった生地からはブリオッシュのような甘みがこぼれます。ふっふっふ。軽さと柔らかみのある食感の土台がしっかり出来た上には、これでもかと黒豆たちがたわわに実りお祭り騒ぎ。

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ねっとり感が引き出され、豆嫌いの人が苦手とするだろうパサつきはゼロで瑞々しく、しっかり甘い。お正月しか黒豆を食べない私ですが、そうそうこのねっとり甘い感じが好きなのだと思い出しました。あ、もうお正月から半年も経ってしまったのね(唖然)。

帰り道のお約束にしたい…〈ラ・ ブーランジェリー・ピュール〉

学芸大学駅の並び、高架下にあるお肉屋さん、スーパーなどが並ぶ一角にあるパン屋さん。夕刻、皆慌ただしくパンを買っていくその光景は街の活気に満ちていて日常のパンってこうでなくっちゃとワクワクします。

「クリームチーズパン」
「クリームチーズパン」

生地はふわっと系で、少し温めると一つ一つの気泡がまるまると膨らんでいき、口当たりはほわんと夢見心地で眠れます(起きろ)。
眠りから覚めたら(寝てたんかい)どーんとそびえ立つ真ん中の山に登りましょうか。カスタードとクリームチーズを混ぜたクリームは、クリームチーズらしいキュッと詰まった酸味が控えめで、カスタードのコクがふわり広がってお互いに高め合っている模様。

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大人も子供も優しく包んでくれるようなふわっと生地に寄り添うまろやかな甘みにとろけるクリームチーズクリームです。

「白玉入りあんぱん」
「白玉入りあんぱん」

のっそりのそのそ。糸を引くカタツムリのようにのっそりと動く生地と餡子、そこにのっかるモチモチ白玉。パンに入れるように間に合わされた白玉じゃなく、これがぜんざいの上だったらお姫様扱いされること間違いなしな混じりっけないやつ。

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そこに少し塩気のあるパン生地が横入りしてなめらかなこしあんの甘さを引き立てるものだからもう困っちゃう。白玉がうにゅうにゅくにゅくにゅとあんこの中を縦横無尽に歩き回り、最後に塩気ある生地が残ってさっぱりと消えていきます。私を虜にしたいつかの塩大福との思い出をどこかでデジャヴさせ、私の舌との駆け引きのツンデレ具合に今日も一喜一憂してしまうのでした。

いつも近くにいてくれる守り神のようなパン屋さんがある街は、きっといい街。私この街に引っ越しても、きっとうまくやっていけそうな気がする。

☆前回の記事はコチラから
☆『花井悠希の朝パン日誌』連載一覧はコチラから

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