花井悠希の朝パン日誌 vol.34 手渡しの幸福…〈chez miki〉と〈チリムーロ〉 LEARN 2018.11.19

手作りってやっぱりあったかい。それが手渡しだったらきっともっとあったかい。冬も目前、寒くなってきた今だから、心がほんわかあったまる作り手の方の温度を感じるお店で朝パンをゲットしてみませんか?朝に食べるお菓子は朝パンだと思っている花井が(わりと強引)、作っている方から手渡しして頂けるお菓子屋さんのパンや焼き菓子達をご紹介します。

甘いキッチン…〈chez miki〉

賑やかな下北沢の駅からずんずんと進めば、辿り着くのは静かな住宅街。ここであっているのかな?とキョロキョロしながら彷徨っていると、見つけました。メニューが書かれた看板と小さな小さなドア。ゆっくりと開けるとすぐそこに現れるのはキッチン。キッチンの真ん中には明るい笑顔の女性が立っていてその一角でパンやお菓子が売られています。まるで彼女のキッチンにお邪魔したかのような空間で、初めましてのはずなのにアットホームな雰囲気に和みます。

「キャロットケーキ」
「キャロットケーキ」

親指と人差し指で触れ、そっと持ち上げたその瞬間から、この軽やかさとしっとり感には気づいていました。気づいていたけれども!ねぇ、こんなに早くいなくなっちゃうなんて聞いてないよ。心にぽっかり穴が開いた気分だよ(大袈裟)。口に運べば、いとも容易くほわほわと形が崩れ、シュンとその溶ける音が舌を伝って聞こえてくるかのように、間に挟まれたクリームチーズのまったりとしたコクの中へと消えていきます。溶けていく中で幻のようにナッツやドライフルーツがキラリと光り、スパイスがひょっこりと顔を出しつつも、その全体のテイストはとても穏やかで。秋の黄金色に満ちる午後の光のように暖かでホッとする味わいです。トップにゴロゴロと踊るクルミは、しっかり炒られて芳ばしさと独特の香り(オリーブオイルかな?)が引き出され、ニュアンスを与えていました。

「シナモンロール」
「シナモンロール」

「これはシナモンロールであってシナモンロールではない。」なんて、低い声で意味深に囁きたくなります。というのも、クッキーがシナモンロールに憧れた、という様子なのです。生地のサクッとホロっとはクッキーのそれ。サクサクっと表面は軽やかでありながら、崩れていくと口の中でまろやかにとろけ出しました。小麦粉の香ばしい香りを充満させながら。

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薄氷のようなアイシングがシャリっと溶けるとレモンのような爽やかさが通り抜け、全てが混ざりあい溶け合った波が連れていってくれたのはシナモンロールの世界。あれ?さっきまでクッキーだったのにな。いつの間にやらすっかりシナモンロールになっています。どこだったの?変身する瞬間。こんな愛らしい見た目なのに、私に謎を残して彼女は去って行きました(胃の中へ)。

大人のファンタジー…〈チリムーロ〉

おとぎ話の中に出てきそうなお店の中にズラリと並ぶのは、スパイスやリキュール、洋酒を使った大人味の焼き菓子達。どの子も主役級な存在感を放っていて、一つ一つ声を聞きたくなります。

「チャイティースパイスクリームチーズ入りケーキ」
「チャイティースパイスクリームチーズ入りケーキ」

この子が近くにいてくれたなら苦手な冬だって、強く生きられる。そう励まされるような力強いチャイティースパイス。肉厚なレーズンも洋酒をたわわに抱えて、私を手招きします。スパイスの香りと刺激的な味わいの足し算足し算に、クリームチーズものっかってくるかと思ったら、おやおや?キミは和み系なのね。とても真っ白でピュアな顔をして、キャラが抜群に立ったテイスト達の真ん中に座りみんなの架け橋となっています。クリームチーズのコクで全体をまろやかに仕立てているのですね。これぞ縁の下の力持ち?またの名は影のリーダー?スパイスパワーで食べ終わる頃には体がじんわりあったかくなってきました。この季節に出会えてよかった。

「バナナカルダモンケーキ」
「バナナカルダモンケーキ」

シュンシュン!カルダモンが爽やかに口から鼻へ一斉に走り出します。表面にけしの実がまぶされているから、少し和のテイストも感じます。バナナ感は弱めかな?口の中いっぱいに、小麦粉の粒と同じくらい細かなスパイスが散りばめられていくから、全ての神経を集中させてその一つ一つのスパイスの煌めきを拾い上げてあげたい。一粒残らず味わい尽くしたい。そして最後は温かいストレートティーで全部全部飲み込んであげたい。

「バタースコッチキャラメルビターチョコがけケーキ」
「バタースコッチキャラメルビターチョコがけケーキ」

冷蔵庫で寝かせてから食べると良いとお聞きしたので我慢の三日間を過ごし、いざ!しーっとり。トップを覆うチョコは生チョコのような艶やかな滑らかさで、深いコクと苦味を携えて、ケーキ部分へ誘います。バタースコッチキャラメルはどこかなぁ?と探し始めたけど、そうか。このケーキ全体からダダ漏れている香りと舌に残るわずかにピリッとした刺激こそがそれなのか。寝かせたからか満遍なくバタースコッチキャラメルが染み渡り落ち着いて、いい頃合いな落ち着きを得ていたのですね。そんな全体的に芳醇な深みの中に、レーズンがいいアクセントで生き生きしていました。

パンやお菓子から作り手の方の想いを感じられる距離感のお店って、そのお店でのひと時も記憶に残るから特別だなぁと思います。そういえば今回、狙ったわけでもないのに、秋から冬に向かう今にぴったりなスパイスの効いたものが揃いました。自分の意識よりも先に、心や体はもう冬支度を始めているのかも!?

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