花井悠希の朝パン日誌 vol.26 パンとフレンチとわたし…〈ブーランジェリーレカン〉と〈blanc〉 LEARN 2018.07.16

「パンとフレンチ」。この2つのワードを並べるだけで、私の中で勝手に物語が走り出す。真っ白なテーブルクロス、朗らかに微笑む素敵なギャルソンがいて、整ったパンと美しい四角に切り取られたバターを何処から見ても隙のない仕草でサーブしてくれる。少し緊張しながらそっと口に運び目を閉じて、舌の上で溶ける冷たいバターの感触と小麦の香りに酔いしれる…。あぁもうそれだけで、日常から離れた世界に連れて行ってくれる。やっぱりフレンチでは少しだけ気取っていたい。今回の朝パン日誌はフレンチレストランが手掛けるパン屋さんを紹介します。「いつものパン」に見えてもそこには、あの心地よく背伸びさせてくれる隠し味が忍ばされていますよ。

老舗グランメゾンの品格宿るパン...〈ブーランジェリーレカン〉

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「銀座レカン」といったらオープンから40年以上の歴史を持つ老舗グランメゾン。そのレカンで提供しているパンやパティシエの作るケーキなどを販売するのが〈ブーランジェリーレカン〉。この日は上京していた母と一緒に、同じ建物の「ミレニアム三井ガーデンホテル」のお部屋で<レカン>のパンを頂くという贅沢な時間を過ごしてきました♪

「クロワッサン」
「クロワッサン」

そのキリッと無駄のない肉付きの見た目からして、きっとストイックでバリバリと屈強な鎧を纏っているタイプだろうと思いきや、一口で覆されました。表面をカリッとやぶると簡単にサクサクと崩れだし、現れる内側はしっとりと柔らかい。

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食感だけで走り抜けるタイプではなく、甘さは控えめで、バターが繊細に口内へとコクを浸透させていきます。中は空気の通り道がしっかりあるので、抜け感もあり軽やかな印象です。

容易く心をひらいてくれる懐の広さと穏やかに広がるバターのさざ波に、人もパンも見ためで判断しちゃいけないなと思いました(この締め方で合ってるのか?)。

「トーン・トマト」
「トーン・トマト」

こちらもクロワッサンと同じようなクロワッサン生地かなと思ったら大間違い!!見ためで判断しちゃダメだって考え改めたばかりなのにいきなり見ためで判断した私の甘さよ(笑)!全周をぐるりと囲むデニッシュ生地はミルフィーユのようなバリバリとした層。クロワッサンのサクサクとは全く異なる強いバリバリ食感が額縁を作っています。そして真ん中のトマトの核。焼かれたことで味が濃縮され、旨みたっぷりとなったトマトの果汁がフレッシュさ十分にぶしゅっと弾け飛ぶ。もうデニッシュの額縁だけでは抱えきれなくて滴り落ちていきます。トマトを下から支えるツナサラダはやわやわトロトロ。トマトのジューシーさと溶け合い一体となって私をとろけさせる。君たち仲間だったのね。

ハッ!!そうか、ツナサラダサンドイッチにトマトは昔から横にいたではないか!小さい頃食べたあのツナサンドにだって横にいたよ。やはり先人の知恵は偉大であるなぁ。。(また締め方…)

「レカン・ムロン」
「レカン・ムロン」

レカン特製のメロンパン。覆っているのはマドレーヌ風味のクッキー生地との説明に、どういうことだ!?と勢いよくはむっと嚙みつけば、まぁまぁと母のような包容力でなだめられました。もちっとした弾力を伴いつつも、抵抗なく柔らかに形を変えてこちらの進入を受け止めてくれます。そのふっくらとした生地感に、はむはむと永遠にやり続けたい欲がおさえられません。そうなんです。すっかりその母性を感じる柔らかさの虜になってしまいました!

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口内で溶け始めるとしなやかに泳ぐ生地を、寄り添うマドレーヌ生地が甘やかに風味を変え、甘いスイーツの世界を予感させながら、パン部分の真っ白な口溶けのよさを引き立てます。

これまで経験してきたメロンパンとは(そこまで経験豊かでもないけど)一味も二味も違うメロンパン、ここにあり!です。

「エスカルゴ・ピスタチオ」
「エスカルゴ・ピスタチオ」

上品とは。上質とは。品格とは?そんな事を思わず考え込んでしまいました。甘さ、香り、ピスタチオの風味、バターの油脂感、そのどれをとっても上質なことがまざまざと伝わってきます。どれも己を前に前にと主張しない美学みたいなものを感じるし、雑味が全くなくて余裕も感じる。なんという品の良さなのか。

でも食べた時にこの「エスカルゴ・ピスターシュ」から強烈な個性を感じるんです。どの要素をとっても声高らかに主張してきていないはずなのに、その全てが一体となった時、ここでしか食べられない「エスカルゴ・ピスターシュ」だと確信してしまいました。引き算の美しさなのでしょうか?鮮やかに印象に残ります。

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断面も惚れ惚れするほど麗しいのでぜひカットして召し上がれ。

組み合わせにときめいて…〈blanc〉

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虎ノ門ヒルズからほど近い小道に佇む〈blanc〉は、パンに合うフレンチビストロ料理を頂けるお店。こちら入り口にはテイクアウト用のパン屋さんも併設されているんです。お料理に合いそうなハード系のパンも充実しているのですが、私が特に気になったのは甘いパンやお惣菜パン(こう言うと急に日本のパンっぽくなっちゃうな…)。食材の組み合わせ方にオリジナリティを感じられるものが多くて目移りしてしまいました。

「丹波の黒豆」
「丹波の黒豆」

ドライなキレ味の小麦がまず第一印象。颯爽と現れ颯爽と去っていく、クールアンドドライな出で立ちです。そして入れ替わるように主張をはじめるのはやはり黒豆さん。和の要素で一気に和スイーツの世界へと連れて行かれるのかと思いきや、あの小麦の余韻の後ろに続き決してスイーツに転ばせません。

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みしっと目の詰まったバゲット生地は噛み締める程にわずかに酸味と、小麦の逞しい芳ばしさが後から後から出てきます。ちょっとー、後出しじゃんけんはズルいじゃないかー。(いつからじゃんけんしてたんだ)すぐ飲み込んじゃう人は損しますよ!笑

ふっくら炊かれた黒豆から、餡子のようなコクのしっかりした甘さがありますが、小麦の力強さもしっかり出ているから、和のパンに傾きすぎないさじ加減が素晴らしいです。

「クリームパン~トンカの香り~」
「クリームパン~トンカの香り~」

モチモチした生地は甘さが抑えられ、このクリームに全てを託している感じ。

でも、でもね。この周りの生地うまーー!!(急に軽めテンション失礼します(笑))
もっちりで歯触りは少し押し返してくるわりに、押しに弱いというか、すぐにふにゃんと負けてくれる。可愛げがあるからつい構いたくなる!いじめたくなる!!(小学生の男子か)甘さがほのかだからずっと食べられちゃうんですよ。

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固すぎず柔すぎない滑らかなクリームはトンカの香りって書いてあったけど、シナモンでもなくカレーでもない、この日本の食卓にはない遠い異国を感じさせる味わい、なのだけどそこは昔行ったことあるかもしれないってどこか懐かしい気持ちにもなる…そんなノスタルジーな奥行きがあります。(何が言いたいのって言わないで)この香り高いクリームを口内で甘やかしているうちにいろんな景色が見えてくるようでした。

今回はフレンチレストランが手がけるパンをご紹介しました。ちょっといつもより丁寧に紅茶を入れて、大切なお皿を出してきて、フレンチエッセンスを感じるパンをゆっくり味わう。自分のために豊かな朝パン時間、作ってみませんか?

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