夏子の大冒険 〜ちいさな美術館をめぐる旅〜 演劇の歴史がぎゅっと詰まった博物館へ。「演劇工程」編。 LEARN 2021.05.05

ちいさな美術館を巡って、作品から思いを馳せて物語を綴るこちらの連載。第5回目の舞台は〈演劇博物館〉。なんと早稲田大学のキャンパス内にあり、古今東西の演劇にまつわる資料が集められた、演劇・映像を専門とする世界有数の博物館なのだそうです。

演劇の魅力って…⁉

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“演劇はなんだか敷居が高い”、そう思われる方も多いのではないでしょうか。取材等でも「演劇を見たことがない方に向けて何か魅力を教えてください」というような質問を度々して頂きます。実は私自身も数年前まで全く演劇など見たことはなかった。しかし、舞台を初めて見た時の衝撃と言ったら、忘れられません。

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3時間強、役者は何も見ないで台詞を話し続ける。巨大なセットを、登ったり、降りたり、天井からは大量の水が降ってくる。呆気に取られて観劇し終えると、今自分が見たものはゲネプロというもので、これから本番が始まるというではないか。これが1ヶ月 毎日続くらしいのです。“正気の沙汰ではない” 、そう思いました。それから、幸運にもその “正気でない” に参加するようになり、その後も演劇の奥深さにすっかり魅了されていく訳ですが、今回は新参者の私が垣間見た、ひとつの演劇が出来上がるまでを、少しだけ書いてみようかと思います。

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「演劇工程」

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本番が完成するまでに、まず稽古が1ヶ月ほどあります。初めにみんなで台本を読む「テーブル稽古」という期間が あって、それから「立ち稽古」が始まります。何もなかった稽古場に、毎日新しいシーンが生まれていくことに感動していると、あっという間に本番まで1週間を切っていたりして、青ざめるのが常です。

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そう、絶賛稽古中の私は今まさに、ここ。ムンクの『叫び』のようになっています。『叫び』は、叫んでいるのではなく、怯えているのだというのは有名な話です。

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そして、劇場に入り、本番と同じ環境で 2、3回稽古をして、ゲネプロなる擬似本番を迎えます。ちなみにこのゲネプロの客席には、いわゆる“関係者”しかいないので、本番にはない、お腹がチクチク痛む緊張感があるのです。これも、あと1週間後ぐらいに差し迫る、未来予想図。

実現されなかった「メイエルホリド新劇場」再現模型 1920年代後半〜30年代/ロシア(製作:伊藤暁建築設計事務所)
実現されなかった「メイエルホリド新劇場」再現模型 1920年代後半〜30年代/ロシア(製作:伊藤暁建築設計事務所)

そうして、ようやく本番の日々が始まります。その日の自分たち、その日のお客様たちが出会う毎日です。幕が上がることが奇跡のような昨今ですが、この工程はきっと、昔から繰り返されてきた演劇の歴史なのではないかと思います。そんな歴史の新たな一ページを今、生きているのかもしれません。とっても浪漫。少しでも、魅力が伝わったでしょうか。

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今回訪れたのは...〈演劇博物館〉

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アジアからヨーロッパ、古代から近代、現代まで。演劇の歴史がぎゅっと詰まった博物館の中には、さらに演劇にまつわる書籍ばかりを集めた図書室も。演劇に携わらせてもらう端くれとして、歴史や知識をもっと身につけたいと思っていた私は、ここに通って片っ端から資料を読み漁ることに決めました。

〈早稲田大学演劇博物館〉

■東京都新宿区西早稲田 1-6-1
■03-5286-1829
■不定休
■10:00~17:00(火金は 19:00)
■入館料無料

※普段は撮影禁止です。

photo : Yumi Hosomi

そうそう、今月舞台に立たせて頂きますので、皆さまと劇場でお会いできますように。と、ちゃっかり宣伝をして、また来月〜!

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