ハナコラボSDGsレポート 「エシカル就活」とは?23歳の創業者・勝見仁泰さんが目指すもの SUSTAINABLE 2022.04.21

ハナコラボ パートナーの中から、SDGsについて知りたい、学びたいと意欲をもった4人が「ハナコラボSDGsレポーターズ」を発足!毎週さまざまなコンテンツをレポートします。第57回は、ライターとして活躍する五月女菜穂さんが、エシカル企業と学生をつなぐ就活プラットフォーム「エシカル就活」の勝見仁泰さんに話を伺いました。

海外を旅して、気候変動や貧困問題を目の当たりにした

ーーまずは勝見さんご自身のことを教えてください。なぜ起業しようと思ったのですか。

「元々、僕の実家は、東京の西荻窪にある八百屋なんです。男4人兄弟の末っ子で、幼い頃から家業を手伝っていました。八百屋という『商い』、そしてお客さんと話す機会も多かったので『人の幸せにコミットすること』には昔から関心があったし、ある種のアイデンティティなんだと思います。

一方、僕は幼い頃からずっと野球を続けてきたのですが、怪我をしてしまったり、自分の才能に限界を感じてしまったりして、モヤモヤしていた時期がありました。今の日本の社会は、何かを挫折したときに、次のチャレンジがしにくいじゃないですか。それで17歳の時に2ヶ月間、東南アジアを放浪したんです。『行動力があるね』と言われますが、僕としては海外に『逃げた』という感覚の方が近いかもしれない。

初めての海外ですし、当時は英語も全く喋れません。でも、旅の中で、貧困問題や気候変動を目の当たりにしました。この状況を是正していかなくてはいけないと強く思いました。社会課題の解決やSDGsに関心を持ち、自分の人生を懸けてやりたいことはこれかもしれないなと思ったんです。

『商い』×『SDGs』で何か事業を生み出して、社会的なインパクトを与えられないか。その辺りが起業を考えたきっかけですね」。

SDGs 五月女さん

ーー野球の道からビジネスの道を進もうと決めたわけですね。

「はい。大学での専攻は経営学ですが、開発学を中心にひたすら勉強しました。ビジネスをどういう風に持続可能にするかというところに関心があったので。

大学1年生のときは、フィリピンで見た『ウェスト・ピッカー』(廃棄物処理場で拾った缶やビンなどの有価物を収集する人たちのこと)に対しての教育事業を展開しました。でも、もっと大きなチャレンジをしたいと思って、文部科学省の『トビタテ!留学JAPAN』に採択してもらい、ドイツに留学をしました。

ドイツでは、ドイツ人と一緒に、バナナやココナッツなど地域の特産品を活用した『カスタマイズシャンプー』という事業をしました。髪の毛をAIで分析して、その人にあった効能を持つシャンプーを提供するというものです。コスタリカまで原材料を調達しに行ったこともあります。ただ、結局、共同創業者が事業から撤退したので、事業を手放すことになってしまうのですが…。

いろいろな経験をして、大学3年生のときに帰国しました。ビジネスのスキルをもっと磨きたいと思ったので、新しく起業するのか、就活をするかは決めずに〈パタゴニア〉日本支社、〈ソフトバンク〉、〈ビズリーチ〉などでインターンをしました。

そこでもいろいろな経験をさせてもらいましたが、一つ課題が見えてきました。僕自身は本来、気候変動や貧困問題というところにコミットしたいのに、就活においては業種や業界でしか企業を選ぶことができない、ということです。周りの友人たちを見ていても、同じような課題感を感じていました。これから社会人として新しいスタートをきる節目に、みんな全くワクワク感がなく、ネガティブに就活を話す人が大半なんです」。

ーー気候変動や貧困問題にコミットしている企業を体系的に知りたい。そんなユーザー側の目線から「エシカル就活」のサービスが生まれた。

「はい。一方、企業側もSDGsの取り組みに対して、ラジオやテレビでCMをしたり、バッジをつけたりしていますが、一元的なデータベースがないですよね。レポートを読んだとしても、どこの企業がしっかりやっているかはよく分からない。そうしたときに、サステナビリティの取り組みを可視化して、情報を届ける必要があるんじゃないかなとも思って。

留学や起業をしている友人が社会課題に関心を持っていて、そんな優秀な人たちが社会課題を軸に企業選びができない。自分と同じ課題を感じていることがわかりました。もし彼らがA社とB社で悩んだときに、最後の判断で、サステナビリティへの思いが強いA社を選んだとすると、B社は『本気を出さなくては』とサステナビリティの動きを加速させるでしょう。ああ、これは産業界を大きく変えることができるのではないかと思ったんです。

プロダクトがまだできる前の2020年8月、自然電力さんやユーグレナさんなどに登壇いただいて、就活イベントをやりました。口コミだけで150人ほどの学生が集まって、実際に企業と学生がマッチして、これは需要があるなということで、事業をスタートさせました」。

SDGs 五月女さん

ーーサービスのマネタイズとしてはどのような仕組みなのですか?

「企業側は、2022年3月現在2,500名ほどの登録者がいる学生のデータベースを閲覧でき、ダイレクトスカウトができます。そのデータベース使用料と、プラスして広告掲載でマネタイズしています」。

ーーなるほど。「エシカル就活」に登録している学生と企業の特徴は?

「現在40社ほどにご登録いただいていますが、企業規模はベンチャーから大企業までさまざまですね。学生は、ユーザーの50%以上が旧帝大以上か海外の大学で、起業・留学・長期インターンのいずれかを経験している人が7割。今後の社会のイニシアチブをとっていく層が集まっていると思います。

僕らはコミュニティをすごく大事にしています。元〈パタゴニア〉日本支社長の辻井隆行さんや、〈一般社団法人エシカル協会〉代表理事の末吉里花さんらをアドバイザーに迎え、スクールやセミナーなども実施しています。例えば、大学1年生であっても、エシカル就活に登録ができるので、ここからメインユーザーになっていく人材をつくっていく。そんな事業も横展開してます」。

ーー勝見さんが感じる、昨今の就活のトレンドは?

「エシカルな取り組みを軸に起業選びをする学生が増えていることもありますが、圧倒的に学生側が企業を選ぶ時代が来たと思っています。能動的に活動できる学生は、大学1年生から動き出しています。

マジョリティはコロナ禍の影響もあって、『学チカ』(学生時代に力を入れて取り組んだこと)の内容が薄くなっている一方で、優秀層は自分でYouTubeを始めてマネタイズしたり、マーケティングをしたり、『STORES』や『BASE』でショップサイトを作ったり、ノーコードでプログラミングをしたり、『デジタル人材』としての素質を磨いていますね」。

SDGs 五月女さん

ーー今後の展望を教えてください。

「今は切り口として『就活』市場に集中して取り組んでいますが、将来的にはもっと広い分野でのプラットフォームの構築を目指しています。

5年後10年後、間違いなくこのZ世代の考え方や価値観がメインストリームになります。今は『就活』や『キャリア』という価値観のデータを集めていますが、例えば『気候変動』『ジェンダー』『地方創生』というセクションでは若い世代がどういうことを考え、どのような行動をとったのか。Z世代の志向性が集まるデータベースを作りたいと思っています。

同時に『エシカル』や『サステナビリティ』、『社会課題解決』に積極的に取り組む企業の先進事例やデータも蓄積してきているので、業界の枠を超えた横のつながりが生み出せたらいいなと思っています。『就職しました、はい、終わり』ではなく、その先も共創できる環境をつくっていきたいですね」。

「エシカル就活」

https://ethicalcareerdesign.jp/

photo:Natsumi Kakuto

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