ハナコラボSDGsレポート 「異彩を、放て。」障害のあるアーティストたちと、福祉のイメージを変えていく〈ヘラルボニー〉 SUSTAINABLE 2021.04.29

ハナコラボ パートナーの中から、SDGsについて知りたい、学びたいと意欲をもった4人が「ハナコラボSDGsレポーターズ」を発足! 毎週さまざまなコンテンツをレポートします。第26回は、編集者として活躍する藤田華子さんが、障害のある方のアートを通じ、福祉のイメージを変えるために活動し続ける〈ヘラルボニー〉を取材しました。

私は重度知的障害のある叔父と一緒に暮らしていました。叔父は絵が得意。同じ風景を見ても私には想像もつかない色彩でキャンバスを染めていき、その感性にワクワクしたものです。
そんな障害のある方のアートをさまざまな形で社会に送り届け、福祉を起点に新たな文化を作り出す活動をしているのが岩手発の福祉ユニット〈ヘラルボニー〉です。今回は、理念に共鳴し活動にジョインしたという、PR担当の中塚美佑さんにお話を伺いました。〈ヘラルボニー〉が理想とする社会は、カラフルで個性を尊重し合う、優しいものでした。

日常でアートを身に着ける楽しみ

PR担当の中塚さん。ご自身も障害のあるお兄様がいらっしゃり、〈ヘラルボニー〉の想いに共鳴したそう。
PR担当の中塚さん。ご自身も障害のあるお兄様がいらっしゃり、〈ヘラルボニー〉の想いに共鳴したそう。

ーー福祉実験ユニット〈ヘラルボニー〉は、どのように始まったのですか?

「松田崇弥、文登という双子の兄弟が代表をしているのですが、彼らのお兄さん・翔太には先天性の自閉症と知的障害があります。家では“普通の”兄なのに、一歩外に出ると障害者という枠組みに当てはめられてしまう。可哀想というバイアスがかかったり、変な目で見られたり…そんな経験が根底にあり、『障害のイメージを変えよう』と両代表が決断したことがきっかけで始まりました」。

ーー「福祉実験ユニット」「異彩を、放て。」「アソブ、フクシ」というポジティブなワードが採用されているのも、「知的障害のイメージを変えよう」という想いからでしょうか。

「まさしくそうです。福祉業界って硬かったり難しかったり、なかなか関わりにくいイメージが強いと思います。でも、本当はこんなに明るい世界なんだよ!と伝えたくて。ポジティブでポップなワードを選ぶことで身近に感じ、福祉にこれまで関わりが薄かった方にも関心を抱いていただけるようにと考えています」。

ーー具体的にどのような取り組みをされているか、教えてください。

「いまは大きく分けて事業が2つあります。ひとつは、障害のある作家さんのアートをいろいろなアイテムに落とし込んで販売する『HERALBONY』というアートライフブランド。ネクタイやハンカチ、スカーフ、傘、カードケース、お財布など、ラインナップは多岐にわたります」。

ーー個性的な絵柄が味わい深くて、身に付けると気分が明るくなりそうです!もう1つはどのような事業ですか?

「ゼネコンの事業で、工事現場を覆う”仮囲い”にアートを施す『全日本仮囲いアートプロジェクト』です。仮囲いを期間限定の『ミュージアム』と捉え直し、地元の福祉施設に所属する障害のあるアーティストが、街と近隣住民の感性を彩るんです。展示を終えたら大きいものだと2×3mほどの大きなターポリン素材のアートを工場で洗浄し、切り取り、バッグとして販売するアップサイクルの活動も行っています。処分されてしまう仮囲いの布に付加価値を付けて、リサイクルする取り組みです」。

ーー作家さんとはどうやって出会われるのですか?

「最初は、障害のある人たちによる美術作品を展示している〈るんびにい美術館〉がきっかけでした。代表の崇弥が岩手に帰省した時にお母様から教えていただいて足を運んだところ、作品に衝撃を受けたらしくて。すぐに事業を展開したいと文登に連絡したそうです。いまはありがたいことに、全国のいろんな施設と取り組みをし、個人の方からメールでお問い合わせいただくことも増えました。また、〈ヘラルボニー〉誕生の地・岩手県に、新しく日本全国の障害のあるアーティストの作品を披露する〈HERALBONY GALLERY(ヘラルボニー ギャラリー)〉もオープンしました。ぜひ遊びにいらしてください」。

SDGs 藤田さん

ーーアイテムを作る際に心がけていることはありますか?

「私も代表も、社会福祉施設で作られたビーズや革製品の小物がとても安価で販売されている現状に悔しい気持ちがあったんです。なので〈HERALBONY〉は『最高の品質で、最高のアートを。』というバリューを提示しています。日用品でありながらアートとして素晴らしいものを目指しています。ネクタイは、老舗の紳士用品店〈銀座田屋〉さんとご一緒させていただいています。シルク素材の織りで柄を表現することでアートの再現性も高く、最高品質のネクタイだと自信を持って言えます。ギフト用にご購入してくださる方も多く、渡すときにブランドのストーリーや想いも一緒にお話いただけると耳にします」。

ーーかわいいから身に付けたい、ファッションに取り入れたくなるデザインです。

「そう言っていただけると嬉しいです。福祉業界の方からはご注目いただくことが多いのですが、まだまだファッション層にリーチできていないので、これから強めていきたいですね。いまはSDGsへの注目が高まっていることもあり、その文脈で関心を持ってくださることもあると思います。まだまだ福祉業界にスポットライトを当てて課題を解決する道のりは長いですが、作家さんとそのご家族を第一に考え、しっかり活動していきたいと思います」。

ーー作家さんにとっても、やりがいのある活動なのではないでしょうか。

「そうですね、嬉しい瞬間もたくさんあって…代表に聞いたのですが、ネクタイをつけて〈るんびにい美術館〉に行ったそうなんです。そこに作家さんがいらっしゃって、自分の絵柄のネクタイを見て『それ格好いいね!』って声をかけてくださったそうです。あとは台湾のモデルの方がハンカチをご購入くださった写真を作家さんに見せたら、『これ私の絵よね!?』とニコニコ喜んでいて。作家のご家族の方々もファンになってくださっているので、すごくいい循環ができていると思います」。

ーー基本的な質問で恐縮なのですが、障害のある方が手掛けられるアートって、何と呼ばれることが多いのでしょう?

「芸術的な訓練を受けていない人が、自身の内側から湧き上がる衝動のままに表現した芸術を海外だと『アウトサイダー・アート』や『アール・ブリュット』とも呼ばれますが、まだ日本だと『障害者アート』という言葉が使われることが多いかもしれません。ヘラルボニーでは『障害のある方のアート』という言葉を使っています」。

ーー「障害者」と書くか「障がい者」と書くかなど、福祉に目を向け、気を遣うからこその議論もありますよね。お考えをお聞かせください。

「そうですね、“害”の字が持つマイナスなイメージを考慮して、あえて平仮名で『障がい者』と表記されることもあるなど、いろんな考えをお持ちの方がいますよね。私たちのアイテムを購入くださったお客様が『障がい』とSNSに書かれていることもあり、配慮して記載していただいていると感じます。
同時にこれについてはさまざまな価値観があり、それぞれの考えを否定する意図はないことを前提としたうえで、ヘラルボニーでは『障害』という表記で統一しています。“害”という漢字を敢えて用いて表現する理由は、障害の“害”は社会側に障害物があるという考え方に基づいているためです。
障害という概念は、『個人モデル』と『社会モデル』の2つの観点から定義されています。障害の原因はインペアメントにあるとし、障害の負担が個人に押しつけられてしまうのが『個人モデル』であるのに対して、障害をインペアメントではなく、社会的障壁として捉えるのが『社会モデル』です。ヘラルボニーでは障害を社会モデルの観点で捉え、それをメッセージとして社会に啓蒙したいという想いから表現を統一しています」。

ーーフィロソフィー「異彩を、放て。」を見た時に、私の叔父も油絵を描いていて、家族一同で「障害は個性だ」と活動を応援していたことを思い出しました。

「まさしく私たちのフィロソフィーと同じですね。障害という言葉の中にも、無数の個性があると思います。障害=個性、異彩を放つこと。“普通”じゃないということは、可能性でもあります。私たちと契約を結んでいただいているアーティストの方は、繰り返しの絵を描かれる方が多いんです。円やリンゴ、ドット、数字や文字を繋げていて、特徴的ですよね。これを描くときにずっと没頭していたり、色彩感覚が面白かったり。そういう個性をもっと世の中へ放っていけると思うのです」。

ーー〈ヘラルボニー〉が考える理想の社会は、どんなものでしょう?

「弊社のnote『ヘラルボニーマガジン』で、代表は『自分たちの根本は、自閉症の兄・翔太にとって幸せな社会になるかどうか、自閉症の兄を育てる両親が安心して過ごせるかどうか、物差しになるのは最終的に家族の幸せでもある。血のつながった一番身近な家族を幸せにできずに、周りの社会まで幸せになんてできるはずがないから』と書いています。私の兄も障害があるので、こういった想いを実現したいと心から思いますね。誰もが安心して暮らせる社会を目指すために、社会福祉施設を作るなども叶えていきたいですね」。

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