SDGs 藤田さん
2020.12.28

第14回 ハナコラボSDGsレポート ここで、本を買いたい。障害のある方々が働く街の本屋さん〈ててたりと〉。

ハナコラボ パートナーの中から、SDGsについて知りたい、学びたいと意欲をもった4人が「ハナコラボSDGsレポーターズ」を発足! 毎週さまざまなコンテンツをレポートします。第14回は、編集者として活躍する藤田華子さんが、障害のある方々が働く支援事業というかたちの書店〈ててたりと〉を取材しました。
SDGs 藤田さん

埼玉県川口市。駅からバスで15分ほど乗ると、住宅地に小さな本屋さんが見えてきます。〈ててたりと〉ーーちょっと変わった名前。実はこの場所には秘密があって、「就労継続支援B型事業所」というかたちで、 障害のある方に必要な支援を行い、彼らが働くための空間なのです。
〈ててたりと〉を反対から読むと「とりたてて」。 「とりたてて」という言葉には「とりたてて問題ではない」、「とりたてて意味はない」と打ち消し語を伴って「特別な~ではない」という言葉になります。ある人にとって「特別な意味はない」かもしれないけれど、反対から読むことで、ある人にとっては「特別な意味がある」。互いに尊重しあえる、そのような意味のある、そのような場所として存在していきたいという想いが、社名の〈TETETARITO(ててたりと)〉に込められているそうです。
今回は、代表の竹内一起さんと利用者の薬師寺和之さんに、本屋さんの日常や〈ててたりと〉への想いを伺いました。私にとって〈ててたりと〉は、「ここで本を買いたい」と思う特別な場所になりました。

選書や在庫管理、営業も!「自分たちでできることはやる」精神

左から代表の竹内さん、利用者の薬師寺さん。
左から代表の竹内さん、利用者の薬師寺さん。

ーー〈ててたりと〉とはどんな書店でしょうか?

竹内さん:質問でお返しして申し訳ないですが、藤田さんから見て、ここはふつうの書店に見えますか?

ーーはい、ふつうの本屋さんに見えますが…?

竹内さん:よかった、それならここは本屋さんなんです。書店というかたちは、〈ててたりと〉を利用している障害をお持ちの方々によって成り立っています。その支援をしている私たちからすると、ここは”福祉サービス事業所”。本屋さんの売り上げはすべて、本屋さんという生産活動に参加されている利用者さんのものなので、私たちはみなさんの支援や介助などをして国からお金をいただいているという仕組みです。一方で、本を買いに来られるお客さまからしたらここは街の本屋さんですよね。そんなふうに〈ててたりと〉がどんな場所なのかは、人によって感じ方が変わってくるんです。

ーーなるほど。福祉施設と聞くとクッキーやパンを作っているところが浮かびますが、本を扱う〈ててたりと〉はどのように生まれたのか教えてください。

竹内さん:私はもともと書籍の印刷会社に勤めていて、福祉と本の親和性の高さを感じたんです。ポイントは、本は日本全国価格が統一されていることと、どこで買っても誰が扱っても中身が同じなこと。では何が価値になるのかというと、障害を持たれた方が運営している〈ててたりと〉でお客様が本を購入することで、彼らに工賃が入るんです。おそらく定期購入をご注文くださっている方は、その価値を感じてくださっているんだと思います。

薬師寺さん:本を扱うメリットもある反面、利幅は少ないので頑張って売り上げを上げていかなくてはいけないというのもありますね。「なぜ今月の工賃がこのくらいなのか?もっとアップさせたいな」なんて、何ができるか考えるきっかけになります。

季節によって変わる棚の本。取材時はクリスマスの本が並んでいました。
季節によって変わる棚の本。取材時はクリスマスの本が並んでいました。

ーーたしかに、売り上げが工賃になるんですもんね。利用者さんはどんなお仕事をされているんですか?

薬師寺さん:書店としての業務全般ですね。

ーーというと、選書や在庫管理、売れ残った本を出版社に返す作業なども?

薬師寺さん:はい、ここでは「自分たちでできることはやる」という軸があるので、お客さんも自分たちで呼び込みます。オープン当初はまったく売れなくて、街の本屋さんは厳しいなぁと。チラシを配ったり、自転車に乗って飛び込み営業に行ったりして、だんだんと知名度が上がっていきました。

効率化はしない。週刊誌一冊の配達も喜んで

個性あふれるポップは、利用者さんの手書き。出版社の方からポップを買いたいとお問い合わせがあったそう。
個性あふれるポップは、利用者さんの手書き。出版社の方からポップを買いたいとお問い合わせがあったそう。
SDGs 藤田さん
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個性あふれるポップは、利用者さんの手書き。出版社の方からポップを買いたいとお問い合わせがあったそう。
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ーーここを利用されている方は、みなさん一般企業への就職を目指されているんですか?

竹内さん:障害者の就労支援施設には3つの種類がありまして、就労移行支援と就労継続支援A型、就労継続支援B型があります。就労継続支援A型とB型はいわゆる”作業所”と呼ばれていて、通うなかで生活リズムを整え、ゆくゆくは一般企業への就職を目指される方もいらっしゃいます。

【障害者就労支援サービス】
・就労移行支援:一般企業への就職と職場定着をサポートする。
・就労継続支援A型:利用者は雇用規約を結び、お給料をもらいながら利用する。
・就労継続支援B型:利用者は雇用契約を結ぶ必要はなく、通所して工賃をもらいながら利用する。

〈ててたりと〉は就労継続支援B型で、障害の程度もさまざま。多様な方がお越しになります。

ーー利用者さんがそれぞれ得意なお仕事を担当するというのは、利用者の方の多様性も背景もあるんですね。

竹内さん:そうですね、まずはみなさんのお好きなことを伺っています。接客が好きな方もいれば、黙々と事務作業をするのが好きな方もいらっしゃいますので、それぞれの適性に合ったお仕事をお願いする流れです。

ーーいまはシステムやAIで効率化できる部分もたくさんあると思いますが、あえてアナログに、お仕事を残しているんですね。

薬師寺さん:まさにそうです。季節によって並ぶ本が変わる棚も、手作りで小道具を作ったり、ポップを作ったり。美容室に営業に行くと「週刊誌一冊をお願いするのは悪いわ」なんて言われるんですけど、それがありがたいんです。注文が何件も重なると配達カレンダーを作ったり、納品方法をチェックしたり、やることが増える。そのなかでそれぞれできること、したいことを担当しています。

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ーー利用者さんからはどんなリアクションがありますか?

竹内さん:私たちのような就労継続支援B型の作業所は、先ほどおっしゃっていただいたよう、パンやクッキーを作ったりといったところが多いです。作業療法的な効果を考えてもそういった軽作業はB型の就労支援に向いていると思います。〈ててたりと〉を開くにあたり、本が好きだったり、絵や文章で自己表現をしたいといった方もいるのではないかと思ったところ、やはりそういうニーズを持たれている方の利用が多い傾向です。やっぱり多様なニーズがあるなぁと。基本的には行政や他支援機関の紹介で利用者さんと繋がるケースが多いのですが、ここはご自分で本屋の作業所を探してきましたという方もたくさんいるんですよ。

薬師寺さん:私は立ち上げ時から利用させていただいているのですが、当初は1日5、6人だったメンバーがいまは1日20名程度になりました。「苦と楽は背中合わせだ」ってよく言うと思うんですけど、もちろんお客様とお話したり、選書をしたりする楽しいひと時もあれば、数字の管理もある。両方あるからやりがいがありますね。

ーーオープンしてから2年ほどが経ちました。嬉しかった瞬間を教えてください。

竹内さん:やっぱり、利用者さんが施設という空間から外に出て、地域の方と繋がっていく瞬間でしょうか。配達に行って喫茶店の方からコーヒーをご馳走になったり(笑)、ここにいらっしゃるお客様と雑談をしていたりするのを見るといいなあと思いますね。

薬師寺さん:僕はオープン当時のことを思い出すと、小さい規模ながらも書店として機能しているので、自分も何か力になれたのかなって自信みたいなものがついた気がします。お客様は、ここが福祉施設だとわかっている方も、そうでない方もいらっしゃいますよね。

竹内さん:そうそう。だから、ここがどんな場所か知らずに入ってきた方とコミュニケーションをとっている様子を見ると、障害のあるなしにかかわらず、素の人間としてお話ししている。そういう光景はいいなと思います。

ーー素敵ですね。ほかに〈ててたりと〉ならではのシーンって何かありますか?

竹内さん:売り場自体は14坪程度の小さい本屋なんですけど、ふだんスタッフの数がものすごく多いです(※)。何かお尋ねいただくとスタッフに取り囲まれることもしばしばで、お話し好きなお客様はいいかもしれませんが、びっくりされる方もいらっしゃるかもしれません(笑)。
※現在は新型コロナウィルスの影響で人数を調整しています。

ーー高級旅館などでで、仲居さんが手厚くおもてなししてくださるみたいな?

竹内さん:そうそうそう(笑)!

薬師寺さん:あとは店内にイスをいくつか置いているので、散歩の途中に座って休んでいただけるのも大歓迎なんです。立ち読みは禁止だけど座り読み推奨。近所のお年寄りや子どもたちも座って読んでいたりしますね。

福祉はサービス業ーー〈ててたりと〉を株式会社にした理由

SDGs 藤田さん

ーーちなみに、〈ててたりと〉は〈TETETARITO株式会社〉なんですね。福祉施設と聞くとNPOや非営利法人が多いイメージですが、株式会社にされたのはどんな意図があったんですか?

竹内さん:実際の運営面では税金など考えるとNPOのほうが良いんですけど、私の想いから株式会社にしています。私は利用者さんのことをサービスの”消費者”として捉えるようにしています。私たちが提供する福祉施設のサービスの受益者・消費者。私にとってはサービス業であり利用者はお客さんなんですが、そういう考えが支援者には必要なのかなと思うんですよね。法律も制度もない何十年前から、それこそ手弁当で親や支援者が頑張って今の障害福祉につながっていると思います。そして今、色々な意見があるでしょうけど法律や制度が整ってきて障害福祉サービスの参入する理由も形態も多様になってきた。その中でとても残念なのが支援者の障害者虐待の問題。手をあげたり、適切なサービスを行わなかったりといったニュースを目にすることも多いですね。

ーー私も障害を持った家族がいたので、ああいった報道を見るたび、本当に胸が痛くなります…。

竹内さん:障害者を過度に弱者と認識したり、その弱者に「支援してやっている」という姿勢がそういった状況を作ってしまうように思います。とても熱心な支援者でも、利用者目線ではなく支援者目線で熱く進んでいく中で、虐待などの問題に発展してしまうこともあります。その熱心さゆえに、想いが届かない、うまくいかないことに対して感情的な対応になったり。他の業界、建設業でも飲食業でも、書店業でも出版業でも顧客に虐待なんて話は聞きませんよね。利用者に「支援をしてやっている」ではなく、お客様という「人」に対して「サービスを提供している」と私たち支援者が自覚できれば、当たり前に、虐待は減るのではないでしょうか。支援という仕事を特別視したり神聖視したりせず、他の業界と同じように自分たちはお客様からお金をいただき、稼ぎ、ご飯を食べている、そういったことを私自身と一緒に働く支援者が少しでも思えるように、株式会社にしました。利用者さんと私たち支援者の想いが、より健全なかたちで繋がることができれば良いと思います。

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ーーSDGsを考えるうえで、おすすめの1冊を教えてください。

竹内さん:SDGsでいうと〈ててたりと〉は貧困、福祉、働きがいのあたりが関係してくると思います。「“誰一人取り残さない”世界」という考え方も福祉に通じるものがあって、それについて書かれている『ピープルデザイン:超福祉 インクルーシブ社会の実現に向けたアイデアと実践の記録』という本はおすすめですね。マイノリティの方に対しての福祉サービスの事例がいくつか紹介されています。

ーー最後に、今後やってみたいことをお聞かせください!

薬師寺さん:新型コロナウィルスの感染が終息したら、作家さんを招いたイベントをしてみたいですね。ただ、いまは何もできないので、何ができるか模索していきたいと思っています。

竹内さん:私は障害を持たれた方と〈ててたりと〉で一緒に過ごすなかで、彼らの可能性をすごく感じています。一般就労を目指されている利用者さんも多いですが、現状はほとんどが最低賃金で、パートの雇用形態です。正社員の枠も用意はあり、希望される方も多いけど狭き門。一般就労されている、目指されている障害者の方のために待遇の改善につながるようなことを、国の障害者総合支援法の枠外も含めて貢献できればと思います。

〈ててたりと〉

■埼玉県川口市上青木西5-25-17
■9:45〜17:00 日曜休
http://tetetarito.com/

藤田 華子
藤田 華子 / ハナコラボ/SDGsレポーター

「〈RIDE MEDIA&DESIGN株式会社〉所属。編集者としてコンテンツを制作しながら、プロジェクト〈Act for Planet〉を推進。〈DRESS〉〈暦生活〉〈ランドリーボックス〉などでエッセイの執筆も担当する。」

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