今のあなたにピッタリなのは? フリーランスPR・白井里奈さんのために選んだ一冊とは/木村綾子の『あなたに効く本、処方します。』 LEARN 2021.07.14

さまざまな業界で活躍する「働く女性」に、今のその人に寄り添う一冊を処方していくこちらの連載。今回のゲストは、フリーランスPRの白井里奈さん。「どうやってお仕事が舞い込んでくるの?」「そもそもPRってどんなお仕事なの? しかも“フリーのPR”って?」など、長年抱いていた疑問をくまなく伺いました。今回は、いつもに増して笑顔に溢れた回となっています^^

今回のゲストは、フリーランスPRの白井里奈さん。

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スポーツメーカーを “とある理由” で退職後、昨年5月よりフリーランスに。撮影のブッキングやインフルエンサーのキャスティングなど、「人」を介するお仕事を展開。誰とでもすぐに仲良くなってしまう “人たらし” 具合は、まさに天性! 交友関係も何やら凄そうです。

フリーランスのPRって一体…!?

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木村綾子(以下、木村)「はじめまして。白井さんはフリーランスでPRのお仕事をされていると伺いました。実は私、“フリーのPR”って肩書きの方と出会う度に、一体どうやってお仕事をされているんだろう? って気になってたんです。なので今日はいっぱい聞こうと楽しみにして来ました!」
白井里奈(以下、白井)「わーありがとうございます!たしかに、傍から見ると何やってるか分からないですもんね(笑)。 私は “NGなし” なので、何でも聞いてください!」
木村「さっそくですが、PRって、具体的にはどんなお仕事なんですか?」
白井「たとえばある新商品が発売されるときに、その商品を売るためにどういう企画を立てて宣伝していったらいいかを考えるのが主な仕事ですね。企業に勤めているPR担当さんなら、その企業が発売する商品を宣伝する、みたいな」
木村「なるほど! 白井さんのように“フリーの”とついた場合は?」
白井「働き方はそれぞれだと思いますが、私の場合は案件ごとに企業や個人からご依頼をいただいて、宣伝用の撮影に関わるスタッフやモデルをアサインしたり、インフルエンサーと呼ばれる人たちを企業やブランドに紹介したりしています」
木村「具体的にはどんな依頼が来るんですか?」
白井「「この商品の広告つくりたいから〇〇万円で撮影まるっと組んで!」 みたいにお仕事が振られて、スタイリストやヘアメイク、フォトグラファー、ビデオグラファーと言われる職業の人たちに声をかけ、撮影当日のディレクションもする! みたいな感じですね」
木村「すごい!そんな責任あるポジションを社外のフリーランスの方に託すと考えたら、白井さんってめちゃくちゃすごい人なんじゃ!?」

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木村「現在に至るまでにはきっといろんな段階を経てきたと思うんですけど、フリーになる前はどんなお仕事をしてたんですか?」
白井「元々は、新卒で入った〈アディダス〉で3年くらい PR をやっていました。けど、去年の5月に “コロナ解雇” されてしまって。あははは!」
木村「え! そうだったんですか!」
白井「各国の PR のポジションが一斉に切られたんですよ。 しかも、メール一本で! ほんと、外資だな~って感じです。あれはビビりました。あははははは!」
木村「こんなに明るく解雇について語る人、初めてです(笑)。そこからどう巻き返したんですか?」
白井「「やば、生きなきゃ!」とは焦りつつも、どうしたもんかな〜と。とりあえず開き直って「コロナ解雇されちゃったよー!」って友だちに話したり、「りな、adidasやめました。」ってインスタに投稿したりしていたら、「白井が会社を辞めたらしい!」「暇らしい!」みたいな感じでどんどん広がっていって、「ってことはこれからはフリーで仕事頼めるの!?」と連絡くれる人がぽつりぽつりと出てきて…」
木村「図らずも、コロナ解雇を周りがポジティブに受け止めてくれた!」
白井「そうなんですよ。「これできる?」って振られたらとにかく「できます!」と答えて、無我夢中に…。やー、なんとか一年は生き延びました!あははは!」
木村「…まだ笑ってる(笑)。でも今のお話って、いつどんなパンデミックが起こるか分からない現代を生きている私たちの指標になると思いました。めちゃくちゃ軽やかにピンチを乗り越えるすごいお手本!」
白井「わ、嬉しい! 軽やかって初めて言われました!」

エピソードその1「この人とやりたいから受ける!」

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木村「白井さんの働き方をもう少し掘り下げたいなとも思うんですけど、仕事をする上でのこだわりや哲学みたいなものってありますか?“白井里奈の、セブンルール” みたいな」
白井「う~ん、固定のお付き合いをしない、ってのはありますね。その方がいろいろできるんですよ!」
木村「企業と専属で契約をしないで、案件ごとに受けるってことですね。じゃあ次! こういうお仕事だったら受けるとか、逆に断っちゃうみたいな、そういう線引きはありますか?」
白井「決め手は人。お金では決めないってことですね。さっき木村さんが“軽やか”って言ってくれて気づいたんですが、私が軽やかでいられるのってきっと、この性格ややり方を良いと思ってくれる人たちと一緒に働けているからなんだろうなって。一度に多くのお金をいただける仕事に目が眩むときも正直ありますけど、一度お仕事をして結果を残せれば、必ずまた依頼をいただけるので」
木村「“お金じゃなくて人”。その信念には私もめちゃくちゃ共感します!ちなみに得意なジャンルとかはあるんですか?」
白井「得意ジャンルか〜。……あ!それも “人”ですね!」
木村「“人”!?てっきり、スポーツとかコスメとか、そういう答えが来ると思っていたんですが(笑)」
白井「やー、人ですね(笑)スポーツもアパレルもコスメも、あと飲食なんかもやりますが、どんな分野の仕事が来ても紹介できる人がいるってのが私の強みです」
木村「すでに独自のコミューンを持ってるんですね。はやく会社化したらいいのに!」
白井「会社化するなら、拠点をニューヨークに移すタイミングですかね!」
木村「え、ちょっと待ってちょっと待って。また面白い答えが返ってきたぞ(笑)。どうして突然ニューヨークというワードが?」
白井「幼稚園の頃に向こうに住んでいたのと、大学の頃にも1年間留学していたので友達がいっぱいいるんですよ。あと、ちょっとずつ海外のクライアントも増えてきたので、会社にするならニューヨークを拠点にしたほうが、いろんな人とお仕事ができるだろうなって」

処方した本は…『ピンヒールははかない(佐久間裕美子)』

木村「白井さんのお話を聞けばきくほど、ロールモデルになるんじゃないかと感じたのが、ニューヨークを拠点にフリーライターとして活躍されている佐久間裕美子さんという方です」
白井「肩書きの前に付く“ニューヨークを拠点に”ってフレーズ、めっちゃカッコいいです…!どんな方なのか気になります!」
木村「佐久間さんは、1998年、イェール大学大学院進学を機にアメリカに渡り、以来20年以上、ニューヨークを拠点に生活している方なんです。はじめての就職も、結婚も離婚も、フリーライターとしての独立も…、全てニューヨークを拠点に経験してきたそう。この本は、40代前半を迎えたタイミングで独身の著者が、女友達とのエピソードを交えながら、生きることについて書いたエッセイ集です」
白井「人生の重要な転機をぜんぶニューヨークで経験してる…!」
木村「そう。でもね、その人生のサバイブの仕方がものすごく軽やかなんですよ。そしてとにかく人に愛される方で、躓いたり立ち止まったりしてしまったときには、常にそばに人がいて、手を差し伸べ、共に語り合う中で、杖になるような言葉をくれる」
白井「めっちゃ素敵ですね! 私も、どんだけ人に助けてもらってきたか・・・。あと、この帯にある“めいっぱい生きる。”って言葉にもめちゃくちゃ共感します」
木村「その言葉は本当に、佐久間さんご自身や、ともに生きている仲間、この本に書かれてあることを象徴しているんですよ。読んでいると無性に動きたくなるというか、こうしちゃいられない!みたいな気持ちになってくるし」
白井「日本人としての視点でアメリカを語ってもいるだろうから、“日本人の自分”を改めて見つめる機会にもなりそうです! こういうパワフルな人が向こうに住んでいるっていうだけでも、私の野望を後押ししてくれますね」

エピソードその2「やりたいこと全部やってやる!」

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木村「ここまででお仕事のナゾは解けましたが、今度は“人間・白井里奈”がどう形成されたのかに俄然興味津々です。いったいどんな人生を歩んできたのか…」
白井「わかりやすいエピソードだと、高校生の頃に一回死んで、今の私がいるって感じですかね」
木村「ちょっと待って、さらりと言うには濃すぎます!(笑)詳しく聞かせてください」
白井「高校の頃、脳の病気を患ってしまい、約2ヶ月、寝たきり状態だった時期があったんです。本当に危ない局面も何度かあったらしく…。お見舞いに来てくれる子が口を揃えて「りなが死んじゃう!」って号泣して帰ってくのをただただ見てました。「いやまだ生きてるから!」って返したくても、動けない喋れない、ツッコミもできない(笑)」
木村「そんな壮絶な経験まで、なぜ笑って話せるのアナタ!」
白井「いやだって、あれ以上辛い経験はもう二度とないと思ったら、怖いものもなくなっちゃったんですよ。一回死んだ分取り戻さなきゃ!繋がった命を無駄にしちゃダメだ!! やりたいこと全部やってやる!!! って。それ以来ですね、どんなピンチも逆境も、プラスに変えて楽しんじゃえ!って思考になったのは」
木村「なるほど。さっき佐久間さんの本の帯 “めいっぱい生きる。“に反応したのは、そういった体験があってこそだったんですね」

エピソードその3「私、遠回しに断られたんです!」

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木村「大学時代のお友達には、同じような働き方をされている方が多いんですか?」
白井「大学は上智大学で、社会学を専攻していたので、当時の友だちは広告とか商社、銀行などに就職していきました。だから次第に会うことも少なくなっていって。今は業種が近かったり、ライフスタイルが似ている人たちと会うことの方が多くなってきています」
木村「私も政治経済学部だったんですけど、同じ4年間を過ごしていても全然違う人生を歩んでいくなっていうのは常々思います。学生時代から、PRの分野に興味があったんですか?」
白井「いやいや、就職活動ではそれこそITや商社なんかも受けたんですよ。ただ、証券会社に数日間のインターンに行った時、担当の社員さんから「白井さん、あなたのいるべき場所、ここじゃないよ!」って初日から言われちゃって。私、遠回しに断られたんです(笑)」
木村「すごい軽やかに残酷なこと言われましたね(笑)」
白井「うそー!ってなりました(笑)。しかも最後の日には「今日までみんなの事盛り上げてくれてありがとう!」とまで言われちゃって。単なる盛り上げ要員だったっていう(笑)。でも今思うと、あの社員さんが言っていたことは本当に正解!」
木村「図らずも、その社員さんに導かれるようにして、PR、いわば盛り上げ役という天職に出合っていくわけですね」

処方した本は…『すべてを手に入れたってしあわせなわけじゃない(鈴木涼美)』

木村「天真爛漫な性格に生まれ、PRという天職を手にした白井さんにも、過去には生死を分ける壮絶な体験や、人生の軌道修正があったことがわかりました。他にも、いろんな取捨選択の果てに現在の白井さんがあるんだなぁと思い、この本を紹介させてください」
白井「すごいインパクトあるタイトルですね〜!」
木村「この本は、人生における岐路において全く別の、あるいは真逆の選択をしてきたA子とB美の話が、並列に語られていくんです。Aに進めばBに進んだ人のことが気になるし、Aを捨てればAを大切にしている人のことが気になる。白井さんが選ばなかった人生に思いを馳せて読むと、疎遠になった友達と久しぶりに語らうような感覚で楽しめるかもしれないです」
白井「たしかに! 人生のターニングポイントってやつですね。あっちを選択していたら、今頃どういう人生になったていただろうって考えてしまうこと、しょっちゅうあります」
木村「A子もB美も架空の存在なのに、とにかくリアリティがすごいんです。フィールドワークを重ねてひとりひとりの人格を形成したであろうことが読んでてわかるし、人や世間をシニカルに描きながらも、絶対に否定しない。著者の涼美さんという方は、人を見る目が本当に優しくて、誠実なんですよ」
白井「…実はさっきから、“鈴木涼美”ってお名前にも興味が湧いてました。思わず声に出したくなる名前!(笑)」
木村「著者本人にも注目してくれましたね! 涼美さんは、人としてもものすごーく面白くって奥深くって、思わず掘り下げたくなる方ですよ! 現在は、社会学者・作家としてご活躍な彼女ですが、翻訳家の両親のもとに生まれ、慶應大学、東京大学大学院、日経新聞記者という華麗な学歴を持ちながらも、高校時代は“ブルセラ少女”、大学時代はキャバ嬢、AV女優という一面も持っていたという…」
白井「わぁ! 俄然、興味津々! さらにリサーチして、キャスティングリストに加えさせていただきます!」

エピソードその4「人と人を繋げるのが好き」

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木村「今日こうして白井さんとお話をしてきて一番に感じたのは、どんな場所でもどんな環境でも、そこを楽しい場所にする力のある方なんだってことでした。そのためには、そこにいる自分が誰よりも楽しく幸せだと感じる必要がありますよね。自分が楽しむために、楽しめる仲間を集める。その結果、人と人とが繋がっていって、予期せぬ化学反応が起こったりなんかもして…。白井さんという存在そのものが、“企画”になってる」
白井「わ、嬉しいです! 昔から人と人を繋げたりするのが好きだったので、それをそのまま仕事にしちゃった感じなんですね。究極の ”公私混合” です!」
木村「まさに企画って、例えるなら“と”という存在だと思ってるんです。それがあることで何かと何かが繋がる。さらには、繋がることで、自分や誰かの人生が、もっと言えば世の中までが、良くも悪くも変わってしまうもの。俳句の世界には「二物衝撃」って言葉があるんですが、ご存知ですか?」
白井「ニブツショウゲキ…? 初めて聞きました!」
木村「簡単に言うと、イメージの異なる、一見まったく関係ない二つの言葉を意図的に取り合わせることで、1+1以上の豊かな世界観が生まれるということ。私も企画のお仕事を長く続けていますが、「二物衝撃」は、企画と向き合う際の座右の言葉にもしているんです。白井さんは、きっと二物衝撃さえ軽やかにできてしまう方なんだろうなぁ!」
白井「PRのお仕事の醍醐味ってまさにそれです! キャスティングひとつとっても、このモノのために誰を集めたらいいだろうとか、あの人とあの人を掛け合わせたら、どんなことが起きちゃうだろう!って想像する時間が楽しくて、描いた景色が現実になった瞬間は最高に幸せで! 今日木村さんと話していて再確認しました。私にとってPRは天職です!!」

処方した本は…『Neverland Diner(都築響一)』

木村「最後に紹介したいのはこの本。…とその前に、今回オススメした本について、面白い共通点を見つけたので話してもいいですか?」
白井「え、なんですかなんですか!?」
木村「「この本はどうかな?」って閃くきっかけが、著者つまり人だったんです! 本に書かれてある内容がまず浮かぶのではなくて、こんな面白い人がいるから白井さんと繋げたい!が最初にあったんです」
白井「それは嬉しい!」
木村「それで言うと、白井さんに対するこの本の一番のプレゼンポイントは、編者である都築響一さんの、本という“場”のつくり方。人を集めて編む、編集力です」
白井「なるほど。本をひとつの場所と捉える考え方、面白いです」
木村「この本には、「もう行けないお店」をテーマに、色々な人にとっての忘れられない味と、味から想起される景色や記憶が短いエッセイで綴られています。100人の方が寄稿しているんですが、まずはそのラインナップをご覧いただきたい」
白井「ものすごいバラエティに富んでいる!…あ、さっき紹介してくれた佐久間裕美子さんもいます!!」
木村「作家、編集者、歌人、脚本家、ミュージシャン、漫画家、現代美術家…。錚々たる名前がずらり並んでいて、それだけでも圧巻ですよね。読んでいくとわかるんですが、ひとりひとりの記憶がぜんぶ違うように、文体も、漢字や数字の使い方も、人によってバラバラ。都築さんは、それこそが個性や記憶の面白さだととらえて、あえて統一せず残したということを序文でも語っているんです」
白井「誰の個性もつぶさない。均さない。…おこがましいけど、私がキャスティングするときに大事にしてることに近いです!」
木村「でしょう!? 人を掘り起こして、その人の面白さをどう磨いたら輝くかを極めている方なんですよ。都築さんの手がけた作品は本当にたくさんあるので、白井さんには、キャスティングや場づくり目線でも色々な発見をしていただけるような気がします」

対談を終えて。

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対談後、今日の3冊すべてを購入してくれた白井さん。「普段本を買わないから、自分のための本を選んでもらえて嬉しい! どのくらいマッチしているか、今から読むのが楽しみです」と話してくれました。彼女の少し派手めな私生活が垣間見えるInstagramはこちらから。また、どこかでご一緒できますように。

Instagram(rina_shirai)

撮影協力:〈二子玉川 蔦屋家電〉

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