今のあなたにピッタリなのは? モデル・小谷実由さんのために選んだ一冊とは/木村綾子の『あなたに効く本、処方します。』 LEARN 2021.06.09

さまざまな業界で活躍する「働く女性」に、今のその人に寄り添う一冊を処方していくこちらの連載。今回のゲストは、ハナコでお馴染みの小谷実由さん。ずっと会ってみたかった彼女に、本のことやお仕事のこと、今年控えている “BIG プロジェクト” について伺いました。

今回のゲストは、モデルの小谷実由さん。

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モデル業を軸に、執筆活動やモノづくりなど、肩書きにとらわれない活躍を見せる彼女。本が好き、服が好き、Hanako.tokyoでやっていた “趣味探し連載” の初回公開日が一緒 …など共通点も多々。過去には『GINZA』のカルチャーページで少しだけコラボしたことも…⁉

“おみゆちゃん”との、念願の初対面…!

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木村綾子(以下、木村)「はじめまして。やっと会えましたね!おみゆちゃんの存在はずっと知っていて、共通の知り合いも多いことから勝手に“ちゃん”付けで呼ばせていただいていたのですが、いまさらながら失礼じゃなかったですか?(笑)」
小谷実由さん(以下、小谷)「全然…!私も“綾子さん”って、呼ばせていただいていいですか?」
木村「ぜひ!! はぁ…。なんだかこれで正式に始まった気がしますね」
小谷「ですね(笑)。それにしても、年明けにInstagramでフォローをしてくださった時は、思わず声が漏れました。綾子さんが私のことを認識している! という事実が嬉しくて。“いいね”がつくたびに、「この(スマホのタップのこと)お手間かけて、すいません! 」って気持ちになっていました」
木村「タップのお手間…(笑)。いやいや、本当に好きなんです、おみゆちゃんのインスタグラム。例えば本を紹介するにしても、手にとった理由や感想だけじゃなくて、読み途中のものには「まだ途中です」としっかり記す。そういう細部に心尽くしのお人柄が表れていて、私もこうありたいと学ばせてもらっていたんですよ」
小谷「ありがとうございます。実は、本を定期的に読むようになったのは割と最近のことなんです。世の中の “本好き” に比べたら読書量も少ないし知識も浅いんですが、「この本に出合えてよかった」「救われた」って気持ちをなかったことにしたくなくて、少しずつ書き残すようになりました。私の投稿を見てその本を手に取る人がいると思うと、どうしても丁寧になってしまうんですよね」

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木村「投稿を見ていて、穂村弘さんあたりの作品がお好きなんだなぁと思っていたのですが、そもそも読書好きになったきっかけって、何だったんですか?」
小谷「私の穂村さん好き、バレていましたか(笑)。もともとは本の装丁が好きで、モノとしての本に魅力を感じていたんです。読む癖がつく前は、ただ単に本を集めることも好きでした」
木村「本という存在そのものが好きって気持ち、分かります!ちなみによく読むジャンルは?」
小谷「エッセイが多いですね。昔から根がマジメで、枠から外れられないところがあったので、こういう考え方があるんだ! って視点や発想と出合うために、いろんな人の頭の中を覗く気持ちで読んでいます」

エピソードその1「日常のすべてで勝負したい」

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木村「さっきの“心尽くし”の姿勢にも繋がる話ですが…。日常的に自分の“好き”を世界に発信できるSNSって本当に素晴らしいツールである一方で、おみゆちゃんのように広く多くに届く立場になると、発信の責任も大きくのしかかってくるだろうなぁとも思うんです。特にお仕事柄、“好きなものは?”“最近ハマっていることは?”とか、常に新鮮な回答を求められることが多いんじゃないですか?」
小谷「ですね。でも実は私、本当に好きなものってそんなに多くないんです。だからこそ好きになったものはずっと好きだし、頻繁に変わることもないですし。喫茶店、猫、服、本。以上!みたいな(笑)。でも、発信している全部が自分の大事な生活の一部だってことも本当なんです。だから責任を持っていたいんですが、正直、受け取られ方に戸惑ってしまった経験はあります」
木村「身につまされるなぁ。たとえば私だと、10代でファッションモデルやりながら「本が好きです」「好きな作家は太宰治です」「好きな小説は『人間失格』です!」って言っちゃったんですよ。ど真ん中過ぎて逆に避ける回答ですよね(笑)。モデルで本好き? 本好きなのに太宰? 『人間失格』? ほんとに本好きなの!? って失笑されたこともありました。…あの日の発言に説得力を持たせるために、その後の私の人生が決まったと言っても過言ではない(笑)」
小谷「あぁ、すごく響きます…! 分かってくれる人はいるんだから、って考え方もあると思うんですけど、やっぱり私は誤解されたくなくて、言葉を尽くしてしまうんですよね」
木村「発信することって、いろいろと責任や面倒がつきまとうので、おみゆちゃんがあれだけ生活の多くを発信している背景には、並大抵じゃない覚悟と努力が伴っているんだろうなって尊敬していたんですよ」
小谷「痛み入ります…!そういえばこの間、山里亮太さんの『天才はあきらめた』を読んだんです。普段テレビでは見せない泥くさい努力や、今のポジションまで上り詰めるための戦略みたいなことが赤裸々に綴られていて。なんだか、人として尊敬できるなって思ったんですよ。私もあんな風に日常のすべてで勝負したいって気持ちはありますね」

処方した本は…『その落とし物は誰かの形見かもしれない(せきしろ)』

木村「おしゃべりを初めてまだ10分ほどですが、おみゆちゃんの人柄として、心尽くし、真面目、モノや人への敬意ってキーワードが浮かびました。そして今、山里亮太さんのお名前が出てきて「これだ!」とひらめいたのが、せきしろさんのエッセイ集です」
小谷「せきしろさん!『去年ルノワールで』大好きです」
木村「それこそ山里さんも大の信頼を寄せている方で、多くの芸人や作家さんからの人望も厚い方で、とにかく目覚ましいのはその想像力。私も常々、彼の人やモノ、風景に対するまなざしに感心させられているんですが、何より尊敬しているのは優しさなんです。この本は、ひとつの落とし物に思いを馳せて綴られる50の妄想エッセイなんですが、ある落とし物をして“誰かの形見かもしれない”とまで飛躍させる眼差しにクスっと笑ってしまいつつも、そこにはとてつもない優しさを感じますよね」
小谷「落とし物っていう、誰かの元からはぐれてしまったものに焦点を当てるって発想にもロマンがありますね」
木村「日常の取るに足らない景色にさえこんな“もしも”が潜んでいると思うとワクワクしますし、写真×言葉で記録するインスタグラムに活用したら、最高の遊び場になりそうです」

エピソードその2「装丁や文字組みにもこだわりたい」

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木村「現在初の書籍づくりに挑んでいると伺いました。ズバリ、どんな本を出されるんですか?」
小谷「〈NAOT(ナオト)〉っていう革靴ブランドのWEBサイトでやっていた連載をまとめたものなのですが、「隙間時間」をテーマにしたエッセイ集になる予定です」
木村「面白いテーマですね。空いた時間で、靴を履いてお出かけしたくなるような内容?」
小谷「その逆なんです。“出かけること” ではなく “休むこと” にスポットを当てていて、「はしゃいで走り回ったら、ホッと一息休みたくなる。休んだからこそ、また楽しめる」そんな思いを込めて3年間書き続けました」
木村「それは楽しみです! 内容はもちろんですけど、モノとしての本に魅力を感じているおみゆちゃんだから、デザインや紙など、こだわりがいっぱい詰まった一冊になりそうですね」
小谷「30歳の小谷実由を本の中に刻み残したいという気持ちで取り掛かっています。今まさに編集中なんですが、これまでに書いたものを読み返していると、これ本当に私が書いたの? って気持ちになったり、今日の私が読むために過去の私が書いてくれたみたい! なんて思える部分もあったりして面白いんですよね。…それにお察しの通り、「持っているだけで嬉しくなるような一冊を作りたい」という思いが強いので、装丁や文字組み、フォントにもこだわりたいなと企んでいるところです」

処方した本は…『漱石 心(祖父江慎)』

木村「夏目漱石の『こころ』に、こんなバージョンがあるのはご存じでしたか?」
小谷「ぴかぴかの函入り! 知らなかったです。タイトルが漢字の『心』で、“ほぼ原稿そのまま版”とも書いてありますが、他の『こころ』と違うんですか?」
木村「この本は、装丁家の祖父江慎さんによってつくられた、『こころ』刊行百年記念版です。漱石の自筆原稿をもとに、明らかな誤記もそのままにしてあって、新聞連載時の掲載日と回数も記してある。漱石の息づかいや筆使いが蘇った21世紀版の『心』に、祖父江さんの遊び心がたっぷり詰まっています。…函表面の「心」の象形文字は漱石直筆。骸骨は祖父江さん描き下ろし。それから、函の内側も見てください!」
小谷「内側にもイラストが…!」
木村「とにかく仕掛けがすごいんですよ。その全貌は巻末ページにまとめられているので、ぜひじっくり答え合わせをしてもらいたいです。とにかくこれは本として、おみゆちゃんに是非持っていてほしいなと思いました」
小谷「「本として持っていてほしい」って言葉に心をグッと掴まれましたし、装丁家が祖父江さんなんだったら、もうそれは間違いないですね!」
木村「祖父江さんのこと、ご存知でしたか?」
小谷「六本木に〈スヌーピーミュージアム〉がオープンした頃、館内のデザインを担当された彼にナビゲーターとして案内してもらうという贅沢な企画にお呼ばれしたことがありまして。凄い人のはずなのに、私と同じ熱量で「いいよねー!」みたいに接していただいたのが嬉しくて、以降ずっとファンなんです。人柄に惹かれたのがきっかけでしたが、自宅の本を意識して見てみると、「これも祖父江さんだ、あれも祖父江さんだ!」って、彼がデザインした本が身のまわりにいっぱいあったことに気づいて…」
木村「なんだかドラマティックですね! 祖父江さんは漱石の『こころ』が大好きで、あらゆる版型を持っているそうなんですが、いつか祖父江版を作りたいっていう夢をここに実現されたんです。まさに、祖父江ワークの集大成。あと、本って片手で読んでいると“ノド ” の部分が読みづらいじゃないですか。そんなところまで計算して文字組みされていて、本読みのかゆいところにも手が届く、装丁家の本気が詰まった一冊です」

エピソードその3「手に職がある人に対しての憧れが」

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木村「そういえば、この間〈Aquvii〉とコラボして作っていた、肩から掛けられるブックカバー、最高でした!」
小谷「あれは我ながら、いい出来だったなと思っています(笑)。「本の表紙が見えるように透けた素材で作ってくれてありがとう」って、綾子さんメッセージくれましたよね。そこに気づいてくれたのがまた嬉しくて」
木村「本読みを代表してお礼を言わなくちゃ!って、居ても立っても居られなかったんです(笑)。モデルのお仕事から広がりが生まれて、現在は書くことやものを作ることなど色んな分野で活躍されていますが、最初のきっかけは何だったんですか?」
小谷「文章のお仕事は、『GINZA』で「好きな音楽のレビューを書いてみない?」と声をかけていただいたのが始まりでした。その文章を見た編集の方に「あなたはもっと書いたほうがいい」と言っていただいて…。アンケートや数百字のコメントから始まって、自分の名前で連載を持てるようにまでなるなんて、振り返ってみたら夢のようです」
木村「そうそう、実は私も『GINZA』のカルチャーページで、一度おみゆちゃんとコラボしたことがあるんですよ!」
小谷「私とですか!?」
木村「『みすずと雅輔』という、金子みすゞの評伝を特集したコーナーだったんですが、私が金子みすゞの詩をセレクトして、おみゆちゃんには、その詩に散文で応答していただきました」
小谷「あ!覚えています!」
木村「そのときの立ちふるまいの軽やかさと誠実さのバランスが本当にお見事で…。なので、こうやって着実にお仕事の幅を広げられているのにも納得です」
小谷「改めて、自分が欲しいものをカタチにできて、それを人に喜んでもらえるのは本当に幸せだなって思います。昔から、プロフェッショナルというか、手に職がある人に対してもすごく憧れがあったんですが、今の自分を結構気に入っているんです。肩書きはモデルだけど、なにやら他にもいろんなことしているらしい小谷実由って一体何者!? みたいに存在そのものを面白がってくれる人と、これからも作品を作り続けていきたいなって」

処方した本は…『物物(猪熊弦一郎・集)』

木村「これは、画家の猪熊弦一郎さんが集めた「物」を、スタイリストの岡尾美代子さんが選び、ホンマタカシさんが写真に撮るというコンセプトの一冊です。さらに巻末には作家・堀江敏幸さんがエッセイを寄せていて…。いろんな業種のプロフェッショナルが集ってひとつの作品を作り上げるというコンセプトと、その洗練された立ちふるまいが、今のおみゆちゃんにピッタリだと思って選んでみました」
小谷「好きな人ばかりです!しかも、これもまた存在として美しい」
木村「ぜひ中も見てみてください」
小谷「わぁ、この索引のページに、すでに目を奪われてしまいました。整然と並べられている物の姿って、好きなんです。自分で “物撮り” とかしちゃうくらい」
木村「本編も遊び心が効いているんですよ。写真の対向ページには、撮影中のホンマさん(H)と岡尾さん(O)の会話が添えられているんですが、プロフェッショナルの現場のヌケ感が絶妙で」
小谷「〈O ハートです。H ハートに穴が空いている。O ロマンティックな発言。H そういうことにしときましょう。〉」
木村「〈H これ何だろう。O 刷毛じゃないですか? H 箒? O 箒と刷毛の境目は何なんですか?〉 とかも…ふふふ」
小谷「しかもよく考えたら、本のタイトルが『物物(ぶつぶつ)』…!ハマり過ぎていますね(笑)」
木村「なにやらぶつぶつ言いながらも、こんなにも端正な作品が仕上がる。そういうモノ作りの現場こそ最高だなぁって思いますよね。……それにしても絵になるなぁ。この本とおみゆちゃんが、すごく絵になる!」
小谷「私、この本をお洋服にしてみたい!いますごく想像力を刺激させられています!!」

対談を終えて。

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対談後、今日の3冊すべて購入してくれた小谷さん。「この連載のファンだったので、こうやって綾子さんとお話しながら本を選んでもらえたことが夢のようでした。この3冊を携えてこれからも精進していきたいと思います!」と話してくれました。私も大好きなInstagramアカウントはこちらから。書籍の発売も待ち遠しい限りです。

Instagram(omiyuno)

撮影協力:〈二子玉川 蔦屋家電〉

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