今のあなたにピッタリなのは? 乃木坂46・山崎怜奈さんのために選んだ一冊とは/木村綾子の『あなたに効く本、処方します。』 LEARN 2021.02.10

今回のゲストは、本日、自身初の書籍『歴史のじかん』が発売となった、乃木坂46の山崎怜奈さん。ラジオのパーソナリティから歴史本の出版まで、オールジャンルに活躍する彼女に、アイドル界での戦い方や、なりたい人物像についてを伺いました。途中、大好きな朝井リョウさんの書籍について、ふたりで盛り上がる一幕も。

今回のゲストは、乃木坂46の山崎怜奈さん。

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乃木坂46イチの勉強家でラジオ好き、そして “歴女” という、さまざまな表情を持つ彼女。私からの唐突な出演オファーにも関わらず、この日も、『山崎怜奈の誰かに話したかったこと。(TOKYO FM)』放送前のわずかな合間を縫って、会場へと駆けつけてくれました。

自分が戦える土俵をつくろう。

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木村綾子(以下、木村)「山崎さんとは、一昨年の夏に『乃木坂46山崎怜奈 歴史のじかん』という番組にお呼ばれしたのが始まりなんですが、たしかあの時は、初対面なのに恋愛の話をいっぱい聞いて、山崎さんを困らせてしまいました」
山崎怜奈(以下、山崎)「そうなんです。太宰治の人生となぞらえながら「女性心としてどうですか?」という切り口で、根掘り葉掘りと(笑)。あの回、楽しかったですね」
木村「直近だと、去年の大晦日にはTOKYO FMのラジオ『山崎怜奈の誰かに話したかったこと。』にも出演させていただきましたね。たくさんお話しているように思えて、でも考えてみたらいつも何かテーマがあってのトークだったので、断片的にしか山崎さんご自身のことは知れていないなぁと。そこで今回は、ずばりテーマを「山崎怜奈」と掲げて、いろいろお伺いしたいと思っています!」
山崎「テーマが私…!緊張しますねぇ。でも、はい!なんでも聞いてください!」
木村「ではさっそく。山崎さんが乃木坂46に入ったきっかけって、何だったんですか?」
山崎「母が私に黙って応募用紙を出したんですよ。2次審査の通知を私が見つけるっていう」
木村「すごい!お母さまには、先見の明があったわけですね」
山崎「それが、どうやら違うみたいで。後々聞かされたのは「女の社会で、もまれて欲しかった!」っていう不思議なものでした」
木村「教育の一環としてアイドルの世界に、っていう発想もおもしろいです。どうですか、実際に女の社会に放り込まれてみて?」

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山崎「もともとなかった自己肯定感が、マイナスくらいにまで落ち込みましたね。でも、割と早い段階で自分が戦える土俵をつくろうと気持ちを切り替えました」
木村「環境に飲み込まれるのではなくて、状況やそこにいるメンバーの特徴を俯瞰的に見て、分析したんですね」
山崎「可愛い子って、そもそも頭蓋骨のサイズから違うわけですよ(笑)。諦めるところは諦めて、自分は自分の土俵の中で戦っていこうと」
木村「すばらしい洞察力!状況にも自身に対しても冷静かつ論理的思考で向き合うのは、子どもの頃から備わっていた素質だったんですか?」
山崎「そうですね。いわゆる、流されないタイプの子どもだったと思います。友だちグループのみんなが同じことしていても、私はちょっと違うな…と距離を置いて眺めているような。逆に、自分が「これだ!」と思ったら、友だちと遊ぶ時間や睡眠時間を削ってもひたすら没頭しているような」
木村「まさに山崎怜奈の原点に触れられるようなエピソードです。そして芸能界を生きる武器として、歴史やラジオ、クイズを見出したんですね」
山崎「そうなんです。今は乃木坂46に在籍しているからこそ、いただけているお仕事も多いと思うので、そこを出た時が勝負だなとは常々思っています。自分の蓄えをいかにたくさん作っておけるか、あとは、グループにどれだけの還元ができるか。いい具合に甘えつつ、一方で恩返しも果たすことがこれからの課題ですね」

エピソードその1「 “やわらかい” 大人になりたい」

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山崎「実は最近、「やわらかい大人になろうキャンペーン」をしているんです。ラジオをやっていて、自分に余裕がないと、出てくる言葉もカツカツするなって気づいて」
木村「かわいいキャンペーン(笑)。最近やったキャンペーンの内容をお聞きしてみたいです」
山崎「私、今までは休みの日でもギチギチに予定を入れてしまう方だったんですが、例えば先日だと、1時間半だけ敢えて空白の時間を作っておいたんです。当日になって、「そうだ、料理をしよう!」とひらめいて、お惣菜をいっぱい作り置きしたんです。そしたら、その後5日間くらい、冷蔵庫を開けるたびに幸せがフワァっと漂ってきて…!」
木村「友人の高山都ちゃんの、「自分の機嫌は自分で取る」っていう言葉を、いま聞いていて思い出しました」
山崎「高山都さん!すごく憧れの女性です!」
木村「彼女も素敵な女性ですよね」
山崎「はい。いい人になりたいとか、偉い人になりたいは思わないんですけど、柔軟な大人になりたいなとはいつも思っていて。木村さんは、「やわらかい大人」ってどういう人のことを指すと思いますか?」
木村「う~ん、難しい質問だ。「やわらかい大人」をテーマに、一冊選んでみましょうか」

処方した本は…『ごはんぐるり(西加奈子)』

木村「これは、西加奈子さんの生活における、ごはん周り(=ぐるり)のことがまとめられたエッセイ集です。山崎さんの料理エピソードを伺っていたら、この本を読んだときに自然と頭に浮かんできた“西さんがキッチンに立つ姿”が、同じように想起されたんですよ。序盤では料理に対してこんなことも書かれています。〈包丁を入れたときの大根のみずみずしい骨のような白さ、火を入れたときのガスコンロのポッという可愛らしい音、鍋を振るとき腕にずしりとくる頼もしい重み、などが好き、つまり料理を作っている、その行為、そしてそんな自分が、好きなのだ。〉」
山崎「ああ、わかりますわかります。私も、あの時間を過ごしていた自分自身が、思い返しても好きですもん。」
木村「味覚と性格ってどことなく通じるものがあるような気がするんですが、それでいうと西さんは、味覚が柔軟な方だなぁと読んでいて感じます。見たこともない料理や初めての味にも好奇心旺盛なんだけど、ただ柔軟なわけではなくて、好き嫌いの軸はしっかり持っている。そういう西さんのお人柄が、「ごはん」を通して立ち上がってくるんです」
山崎「ああ、これ目次からもう楽しいです。「肉じゃがバター」「脱ビール、でもビール」「初デートの正解」「大阪すぎる」…。活字でごはんを楽しむのもいいですね。でも、私にとって西さんの印象は、「パーン!」と弾ける音が聞こえるような明るさなんですが、木村さんが西さんに感じる「やわらかさ」って、どういう部分ですか?」
木村「きっと山崎さんのイメージする「やわらかい大人」って、ただ単に可愛かったり優しかったりするだけじゃなくて、柔軟性はあるけれど中心にしっかり芯がある人なんだろうなと思いました。状況や相手に応じて自分の立ち回りを考えられる、しかもユーモアを持って。でも、自分の軸は決してブレない。「しなやか」とも言い換えられるでしょうね。そう考えたとき、西さんのしなやかさは山崎さんの目指すものにとても近いように感じたんです」
山崎「しなやか…!私、「実るほど頭を垂れる稲穂かな」って言葉も大好きで、あの稲穂も「しなやか」を体現していますよね。こうやって言葉を連想していくことで、自分の「なりたい」がより明確になりました!」

エピソードその2「みんなの生活に溶け込める番組に」

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山崎「木村さんには年末のラジオにも出ていただきましたが、ズバリ、どうでした?」
木村「私も今日はその話をしたいと思っていたんです。私もラジオでのお喋りは久しぶりだったから、当日は少し緊張していたんです。でも、エレベーターの扉が開いた瞬間、山崎さんの声が聞こえてきて…!」
山崎「木村さんが局に入られた時間って、すでに番組オンエア中だったんですよね。…ちゃんと喋れていましたか、私?」
木村「もちろん!私、以前から山崎さんの声が好きで、喋り方のテンポや相槌の間合いとかが心地いいなぁと感じていました。あの日も緊張でこわばった心に声が染み込んできて、「この声が、私のおしゃべりを聞いてくれるんだ」って思ったら、すごくほっとしたんです」
山崎「わ、そんな風に言ってもらえて嬉しいです!普段、こうやって直接、感想を伺えることってあまりないので」
木村「ラジオって、“ながら” のエンタメじゃないですか。聞いている人のほとんどは、お仕事だったり家事だったり移動だったり、別のことを同時にしている。私自身、出番直前に紹介する本を読み返してトーク内容を組み立てていたんですけど、誤解を恐れず言うならば、まったく邪魔じゃなかったんです! 人の生活に寄り添える番組って偉大だなって感心しました」
山崎「さっき、木村さんに “染み込んできた” って言ってもらえたのがすごく嬉しかったんですけど、目指しているのも実はそこなんです。みんなの生活に溶け込める番組にしたいなと常に思っています。別にブレイクしなくていいし、ブームなんかも来なくていいから、気づいたらあったとか、 そういえばたまに聞いていたなとか、そういう存在になれたらいいなって」

処方した本は…『時をかけるゆとり』&『風と共にゆとりぬ』(ともに朝井リョウ)

文藝春秋出版/2014年12月初版刊行、文藝春秋出版/2020年5月初版刊行
文藝春秋出版/2014年12月初版刊行、文藝春秋出版/2020年5月初版刊行

木村「ラジオを聞いているように読めるエッセイがあるので、ぜひ紹介したいです。その方はラジオ番組もされていて、ラジオもめちゃくちゃ面白いんですけど…」
山崎「待ってください。もしかして朝井リョウさんですか?」
木村「えー!正解です!! ご存知でしたか?」
山崎「存じているどころか、めっちゃ好きです!」
木村「もしかして彼のエッセイもすでに読まれています?『時をかけるゆとり』とか…」
山崎「『風と共にゆとりぬ』とか!(笑)たぶん全部読んでいますね。愛読書です!」
木村「すごい!! 朝井さんの話…、しかもエッセイとラジオって切り口で話ができるなんで最高の日です今日は」
山崎「私もです!朝井さんって、きっと体に毒素がある方じゃないですか。私もたぶん綺麗一辺倒の人間じゃないから、共感できるところがすごく多くて」
木村「でもそっか、ぜんぶ読まれているんですもんね…。せっかくだから、今日はハナコ読者に向けて、ふたりで朝井さんの本をお勧めしてみましょうか!?」
山崎「いいんですか、私まで一緒に(笑)」

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木村「朝井リョウさんのエッセイって、「え、あなた本当に直木賞作家ですか?(しかも戦後最年少)」って疑っちゃうくらい、いい意味でくだらないことばっかり書かれているんですよね。『時をかけるゆとり』には、おバカすぎる青春の日々が中心に綴られていますが、「ゆとり世代」が「ゆとり世代」を見た切なさとおかしみが炸裂していて最高です。朝井さんファンならご存知の情報「お腹が弱い」故に強いられる便意との戦いをはじめ、「知りもしないで書いた就活エッセイを自ら添削する」「直木賞を受賞しスかしたエッセイを書く」なんかも、うまーく自分を突き放して笑い飛ばしていて傑作だし、本作でちょいちょい登場する痔のエピソードが、続く『風と共にゆとりぬ』では、いよいよ一冊の約1/3ページを割いて綴られる超大作に…!(笑)」
山崎「しかもタイトルが、「肛門記」…! しかも冒頭が、〈左記のタイトルを含め、この章を黙読するときは、かの名作「放浪記」や「方丈記」のようなテンションでお願いしたい〉って(笑)。字体も古くからある名作みたいな感じになってて、どこに知性とこだわり注いでいるんですかー!ってなりました。ただ内容は、もう抱腹絶倒の大傑作」
木村「なんで文章でこんなに笑わせられるんでしょうね!電車の中でも思わず吹いちゃったし、家で読んでても、笑い声が一人の部屋にこだましてちょっと引きましたもん(笑)」
山崎「しかも何度読んでも毎回はじめてみたいに笑えるんですよね。他にも、家族旅行や趣味のバレーボール、初めてのアルバイト、初めてのホームステイ、会社員ダイアリーなど、テーマ自体は日常的なのに、朝井さんが書くとコントやドラマみたいな極上のエンタメになっちゃう。朝井さんの作品と出合ったことで、「あぁ、自分に起こった出来事ぜんぶネタにしていいんだ」って、失敗も前向きに受け止められるようになりました。全てがどうでもよくなった日とか、ぜんぜん眠れない夜に読んでもらいたいですね」

エピソードその3「歴史って自分たちと地続きの人たちの話なんだ」

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木村「『歴史のじかん』には、私も太宰治の章で参加させていただいているのですが、ゲラのやりとりを担当編集さんとしている中で、「山崎さんはものすごい熱量をかけて、こだわり抜いて本作と向き合ってくれている」ってことを伺いました。どうでしたか初めて本を作った感想は?」
山崎「どこまで書いていいのかと、どこまで直していいのかが難しくて。たぶんすごく困らせちゃったと思います」
木村「いやいや、編集者冥利に尽きると思いますよ。作家さんと忌憚ない意見を交わしながら作品を作れるのは。本の構成は、各章ごとにご自身のエッセイを書きおろしているんですよね 」
山崎「はい。番組での会話を文章化して、その回で学んだことと、自分の悩みや現代社会の在り方を混ぜ込んで書きました。番組は2020年の5月に終了したんですが、書籍にはコロナ以前のものも収録したので、当時と今とでは歴史の捉え方や感じ方が変わっていた部分もあって。そこをどう整えるかが難しかったです。どっちも自分の素直な気持ちだけど、どっちを活字として残したらいいものかと」
木村「有意義な難産でしたね。そんな葛藤があったことを踏まえて本を手に取れるのも、贅沢な読書体験になると思います。歴史への愛は惜しみなく込められましたか?」
山崎「込めました! 歴史ってたぶん、学生時代の暗記ものの印象が強いから、敬遠してしまう人もいると思うんです。でも、私たちが生きている今この瞬間だって、それこそ1秒経てば過去なので、 歴史上の人物も事件も自分たちの「今」と地続きなんだよ。それが繋がって歴史になっているんだよ。っていうのが伝わるといいなと思っています」

処方した本は…『ギケイキ(町田康)』

木村「歴史好きの山崎さんに、ぜひ読んでいただきたかったのがこちら。古典の『義経記』を下敷きに、作家の町田康さんが源義経の人生を描きなおしていく小説なんですが、まず一行目見てください。〈かつてハルク・ホーガンという人気レスラーが居たが私など、その名を聞くたびにハルク判官と瞬間的に頭の中で変換してしまう。〉」
山崎「…えー、っと。源義経のお話ですよね?(笑)」
木村「そうですよ(笑)。ほらここにちゃんと書いてある。〈私の父を負かしたのは平清盛という人で、大河ドラマやなんかでみたことがある人も多いと思う。〉」
山崎「いやだから、古典を下敷きにした作品ですよね?(笑)」
木村「あぁ嬉しいなぁ! そういうリアクションが欲しかったんですよ!(笑) 『ギケイキ』は、単なる古典の現代語訳でもなく、だからといって『義経記』のストーリーや義経の人生を無視するわけでもなく、史実に則りながらも、いまを生きる私たちの感覚や常識をふんだんに取り入れて語られていくんです。“死後も霊魂だけが残って令和の世の中までを見てきちゃった義経”が主人公だと言えばわかりやすいでしょうか。SECOMとかでてくるし(笑)」
山崎「なるほど! …本当だ、会話のシーンで「え、マジ?」とか言ってる(笑)あ、当時の武装を説明するシーン見つけちゃったんで読みますね。〈唐織のざっくりした感じがワイルドな麻のヒタタレの上から、薄いグリーンの紐で縅した、というのはステッチしたというと近いかな……トップの部分を残して後はみな折りたたんでしまった折烏帽子というキャップをかぶり……いかにもな盗賊ルックだね。ベーシックって感じ。〉 って、こんなのアリですか!?」
木村「でも、イメージしやすいですよね。というか私はこれを読んで初めて武装ファッションが頭の中で具現化できました」
山崎「たしかに、描かれている時代側に私たちの感覚を合わせていくより、今の世の中だとこんな感じだよって説明してもらえたほうがリアルですし、自分事として置き換えられるから楽しいです」
木村「あと、当時って男色がけっこう普通のことだったそうです。主従関係や対立関係もBLっぽく描くことで、イメージしやすくしてくれていて」
山崎「歴史の繊細な背景がうまく今の現代に落とし込まれていますね。参考になりそうだなー! 本を書く前に読みたかったです(笑)」
木村「山崎さんは、これから歴史をエンターテイメントとして話す機会がどんどん増えていくと思うんです。こんな風に歴史を語る作家さんがいるってことをぜひ知ってほしくて、激推ししてしまいました」

対談を終えて。

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対談後、『ごはんぐるり』と『ギケイキ』を購入してくれた山崎さん。「今日はご褒美ロケでした。ハナコのことも好きだし、木村さんのことも好きだし、本も好きだし」と話してくれたのが嬉しかった…! 本日発売の『歴史のじかん』は、歴史に詳しい彼女ならではの視点や考察が満載で、歴史好きはもちろん、そうでない方も楽しめること間違いなしの内容に(私もちょっとだけ出演させていただいています…!)。“歴史グラビア”もすごく可愛らしかったので、皆さま、ぜひお手に取って見てみてください~!

『歴史のじかん』特設ページはこちら

撮影協力:〈二子玉川 蔦屋家電〉

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