「まだ見ぬパン屋さんへ。」by Hanako1193 一度は食べたいクロワッサン。【麻布十番】世界の名店で腕を磨いたシェフが営む〈Scene KAZUTOSHI NARITA〉。 LEARN 2021.05.04

パンラボ・池田浩明さんによる、Hanako本誌連載「まだ見ぬパン屋さんへ。」を掲載。パリ、フィレンツェ、NY、東京…誰もが知る名店でシェフを歴任した成田一世(なりたかずとし)シェフが、〈トリュフベーカリー〉と組み、2020年12月5日、麻布十番に待望の新店〈Scene KAZUTOSHI NARITA〉(シーン カズトシ・ナリサワ)をオープンさせました。

理想から逆算しないと正解はわからない。

成田一世シェフ。クロワッサンを手に。
成田一世シェフ。クロワッサンを手に。

世にも劇的なクロワッサン。漂うブールノワゼットの香りが序章。褐色の皮が枯葉のように崩れ去ると、クライマックスはいきなり訪れる。細かく割れた無数の小片それぞれから甘く快い汁がじゅわじゅわとにじみだす衝撃。驚く間もなく、内部のシルキーな膜にやさしく舌をからめとられる大団円。この体験はパンというより劇だ。食べ手は息を飲みながら舞台を見つめ、ドラマティックな「シーン」を目撃させられる。

どのようにこのクロワッサンを?成田シェフは笑みと鋭い眼光を同時にたたえ、質問に答える。パリ時代、同僚たちと食べたクロワッサンの記憶。日本のバターにない、フランス発酵バターの自然のままゆえの力強い芳香。私たちすべてが、味覚の原点として母乳の記憶を持つこと…。クロワッサンにまつわる感動のパーツを統合、かつ最大限の効果を発揮するよう技術とアイデアを尽くす。

成田シェフの才能に磨きをかけたのは、かのジョエル・ロブションとのコラボレーション。たとえば、ニューヨーク・タイムズ紙「Best of New York」を受賞したプティバゲットは、氏の発言を具現化したものだという。「パンは硬くちゃ食えないよ。さくっと食いきれて、料理を邪魔しないバゲット、作れないか?」発酵種の風味はありつつ、皮は厚くなく、食欲を誘う、感じるか感じないかの酸味に抑え…。共存するはずのないいくつものファクターを呉越同舟させるため、1週間寝ずに試作。のちに全世界の〈ロブション〉で供されるようになるほど、彼の舌を満足させた。「なにがベストチョイスなのか?いつも理想を考えて、そこから逆算しないと正解はわからない」

この世に存在しないほどの完璧な理想を上演する舞台。シーンの幕はまだ開いたばかりだ。

〈Scene KAZUTOSHI NARITA〉

〈トリュフベーカリー〉

パンのほか、ケーキやプチガトーも提供。予約制によるアシェットデセールも現在準備中。クロワッサンは9:00と13:00に焼き上がる。
■東京都港区麻布十番2-3-12 1F
■03-6435-4180
■9:00~20:00 不定休

Navigator…池田浩明(いけだ・ひろあき)

パンラボ主宰。パンについてのエッセイ、イベントなどを柱に活動する「パンギーク」。著書に『食パンをもっとおいしくする99の魔法』『日本全国 このパンがすごい!』など。

■パンラボblogpanlabo.jugem.jp

(Hanako1193号掲載/photo&text:Hiroaki Ikeda)

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