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2021.02.26

モンゴルの自然に包まれて本当の自分を発見する。 「20代はずっと迷っていました」。映画『ターコイズの空の下で』、20代最後の作品に挑んだ柳楽優弥にインタビュー

映画、ドラマ、舞台など幅広く活躍しながら、演じる役ごとにイメージを更新し続ける柳楽優弥さん。20代最後に挑んだ海外合作映画『ターコイズの空の下で』では、大自然が広がるモンゴルを舞台に青年タケシという役柄を通じて、心の豊かさやものの考え方など多くの気づきを得たという。その気づきは俳優としてのあり方、日々の暮らしを振り返るきっかけにもなった。自身の成長と葛藤、日常で大事にしていることを聞かせてもらった。

柳楽優弥さんが演じるのは、資産家の祖父を持つ青年タケシ。贅沢三昧で自堕落な生活を送っていたタケシは、生き別れとなった祖父の娘を探すため、突然モンゴルに送り込まれ、言葉も通じない、価値観も違うモンゴル人アムラとともに旅に出る。果てしなく広がる青い空の下、さまざまな出会いと体験を経て、未知なる自分と出会うタケシ。その姿は自身の姿にも重なったと柳楽さん。「タケシという役柄はあまり役作りをせずに挑んだ」という会話からインタビューはスタートした。

©TURQUOISE SKY FILM PARTNERS / IFI PRODUCTION / KTRFILMS
©TURQUOISE SKY FILM PARTNERS / IFI PRODUCTION / KTRFILMS

─劇中では予想外の出来事に驚いたり、広大な景色を前に呆然としたりと柳楽さんのリアクションが自然で、まるでドキュメンタリーを見ているようでした。事前に役を作りこまないで撮影に臨まれたそうですね。

はい。監督のKENTAROさんとは今回初めてお会いしたのですが、すごく陽気で頭のいい方で、彼が「ドキュメンタリー作品のように撮りたい。コマーシャルっぽい演技はやめてほしい」と常におっしゃっていたんです。

─役を作りこまないというのは、柳楽さんが演じる役柄についての説明もあまりなかったということでしょうか?

そうですね。「高級車を乗り回して女遊びしているお坊ちゃんが、おじいちゃんの娘を探しにモンゴルに行って、そこでいろいろ学ぶんだよ。以上!」みたいな(笑)。決まったセリフもあまりなく、カメラを回しながら、「こう言ってみて」とか、「ちょっと歩いてみて」とか、現場で生まれたものを大事にしていました。そういうやり方は是枝監督の作品『誰も知らない』以来でしたが、僕はやっぱりこの演出法が好きなんだと思います。セリフを事前にきちんと覚えていくことも大切なんですが、その場で即興で作ることのおもしろさを改めて感じました。

”よく見せたい”が邪魔になる。

─撮影中は自分の顔を鏡で見ないようにとか、マネージャーさんとなるべく話さないようにと指示があったそうですね。それによってどういう影響がありましたか?

“よく見せなきゃ”とか“いい演技したい”という気持ちがこの作品を撮る中で邪魔になるので、そういった自意識を手放すことができたかなと思います。鏡で自分の顔を見ず、マネージャーなど近しい人と話さないでいると本当に1人で旅に来ている感覚になりました。

─モンゴルでは携帯の電波もつながらなかったとか。

はい。でも、モンゴルに到着したときに自分の携帯が壊れちゃってて、どちらにしろ繋がらない状況だったんです(笑)。モンゴルのロケ中に日本でいろんなニュースがあったんですけど、それも全く入ってこなかったですね。

─ホームシックにはなりませんでしたか?

最初は少し寂しかったですが、だんだん日本の暮らしから切り離されて、こうした時間を得られることも旅の良さだなと思うようになりました。

─今はどこに行っても電波が飛んでいて、日常から完全切り離される状態ってなかなかないですよね。

電波が飛んでいるおかげで連絡が取れて便利だと思う一方、携帯やPCを開くと情報が溢れていて時に過剰だなと思います。今回のモンゴルでの撮影を経て、改めていろんな場所に直接赴いて人の話を聞くとか、自分の目で見て何か感じることはやはり大切で、より深いものになると思いました。旅先では日記をつけるようにしているのですが、そこには“情報に振り回されないように、生きる上でより本質に迫ったことを体感してほしいと指導を受けた”ということを書いていました。

”本当の自分はどこにいるのか”

─この作品はロードムービーでもあり、タケシの成長譚でもあると思いました。柳楽さんはタケシがどんな成長をしたと感じますか?

物質主義からの脱却でしょうか。タケシは祖父のおかげで何不自由なく贅沢三昧に暮らしているけれども、必要以上のお金を持つと自分の身の丈に合わない次元で周りのものが整えられていき、何をしても満たされない。そんな彼が言葉も通じない、価値観もまったく違うモンゴル人のアムラと旅をする中で、人と人との根源的な繋がりや思いやりがどれほど大切かということに気づく。そういう気づきは今の時代にも合ってると思いました

─柳楽さん自身の成長はどうでしょうか。KENTARO監督と作品を作る中で、新たな自分に出会う感覚はありましたか。

KENTARO監督に出会う前までは「どうやったら演技がうまくなるんだろう」とずっと考えていたんです。20代は映画だけでなく、舞台やドラマもやらせてもらっていたのですが、ずっと迷っていました。「本当の自分はどこにいるんだ。早く居心地のいいところに行きたくてしょうがない」って。撮影前は演技の磨き方に意識が向いていたけど、KENTAROさんは「コマーシャルっぽいのはやめよう」とはっきりおっしゃって驚きました。そう言われたことが今までなかったので。たぶん僕には僕のいいところがあって、それをKENTAROさんは気づいていて、磨いたり、繕ったりせずに、ありのままの僕に限りなく戻してくれようとしたんだと思います。柔軟な考え方を持っているKENTARO監督と出会えたことでなんだかホッとしました。

スコセッシが話しかけてくれたのに…

©TURQUOISE SKY FILM PARTNERS / IFI PRODUCTION / KTRFILMS
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─柳楽さんはモンゴルは初めて訪れたということでしたが、何か衝撃を受けたことはありましたか。

本当に何もかもが新鮮だったのですが、毎日食事がラムだったのはけっこう驚きました。たまにパスタも作ってもらったのですが、フライパンにラムの味がついてるので、結局ラム料理になっちゃって(笑)。でも、とても楽しかったです。俳優もスタッフもみんなとてもいい人でした。

─モンゴルでは寒いとき、仕事中でもお酒を飲むそうですね。撮影現場ではウォッカを飲まれていたとか。

モンゴルの人はウォッカが大好きで、体を温めるために撮影中も飲んでいました。仕事中に飲んじゃいけないっていう概念がないんですよ。その土地土地でいろんなカルチャーがあるんだと知って。でも、アルコールが進むとみんなふつうに酔っぱらってました(笑)。

─劇中では馬乳酒(ウマの生乳を発酵させてつくるモンゴルの伝統的な飲み物)を飲まれていましたね。

何も知らされずに「とりあえずそこ座って、これちょっと飲んでみて」って馬乳酒を渡されて。飲んだら全然おいしくなくて、苦い顔になってしまったのですが、気づいたらカメラが回っていて、そのシーンがそのまま採用されました。馬乳酒は栄養満点で慣れるとおいしく感じるのかもしれないですが、スムーズには飲めなかった。でも、そのシーンが、ドイツのマンハイム・ハイデルベルク国際映画祭で上映したときにすごくウケていました。KENTARO監督はヨーロッパのユーモアも理解して、ああいったシーンを盛り込んだと思うんです。ドイツの方たちが本当にいいリアクションでとてもうれしかったですね。

©TURQUOISE SKY FILM PARTNERS / IFI PRODUCTION / KTRFILMS
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─今作は日本、モンゴル、フランス、オーストラリア、チリなど、キャスト、スタッフともに国際色豊かなチームでしたが、コミュニケーションは基本的に英語だったのでしょうか?

撮影当時は英語がそんなに喋れなくて、”なんとなく”で会話をしていました。

─映画の撮影を終えた後、2019年にNYへ短期留学していたそうですね。

はい、語学習得のためにNYへ行きました。ありがたいことに若い頃から国際映画祭に参加させていただく機会があって、マーティン・スコセッシやマリオン・コティヤールが話しかけに来てくれることもあったのですが、思うように喋れなかったのが悔しくて。少しでもコミュニケーションをとれるようにしたいと思って。

─海外の映画人との交流というと、昨年は来日中のポン・ジュノ監督と俳優のソン・ガンホとお話しされたそうで。

時間的にはほんの数分だったんですが、是枝監督に「来週、ポン・ジュノが来日するからおいでよ」と声をかけていただいて、ポン監督に「柳楽を使ってください」と話をしました(笑)。ソン・ガンホさんからは「『誰も知らない』を観てたよ。あれは素晴らしい作品だ」と言っていただいて感動しました。ソン・ガンホさんは紳士的でユーモアもあり、エネルギーに満ちていました。『パラサイト 半地下の家族』が作品賞に輝いた昨年のアカデミー賞授賞式は本当に興奮しました。スピーチもかっこよかった。僕もドイツの映画祭では英語でインタビューに応えたんですけど、語学は続けていかないとダメですね。

─昨年は料理にもハマったとも伺いました。ふだんはどういう食事を作っていますか?

自分で作るときは一汁一菜の食事を作っています。スタイリストさんから「奇跡の味噌」を勧められて、それを食べるようになってから体の調子が良くなったんですよ。今度は味噌作りにも挑戦しようとも思っています。野菜も積極的に取り入れるようにしています。船舶免許を取ってからは釣りにも行くようになり、釣った魚を自分で捌くようになりました。食べ物によって体調がこんなに変わるのかと身を以てわかったのは大きな収穫でした。これからも食にはきちんと気を配りたいなと思っています。

映画「ターコイズの空の下で」

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監督・脚本・プロデューサー:KENTARO

脚本:アムラ・バルジンヤム
撮影:アイヴァン・コヴァック
音楽:ルル・ゲンスブール、オキ
美術:エルデンビレグ・ビャンバッツォグ
照明:中村晋平
編集:マヌ・ソウザ、ベルトラン・ブティリエ
テーラード提供:TAKEO KIKUCHI
プロデューサー:木滝和幸、ウラン・サインビレッグ

出演:柳楽優弥、アムラ・バルジンヤム / 麿赤兒 / ツェツゲ・ビャンバ、サラントゥーヤ・サンブ、サヘル・ローズ、諏訪太朗、西山潤、佐藤乃莉、ガンゾリグ・ツェツゲ、ウンダルマ・トゥヴシントゥシグ

配給宣伝:マジックアワー、マグネタイズ
2021年2月26日(金)より、新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー

道玄坂 まりこ
道玄坂 まりこ / フリーライター

「雑誌Hanakoでイベント情報ページを担当。おもしろそうなことには積極的に首、足、手、その他なんでも突っ込んでいきたいアラサーライター。」

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